FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第85章

第1551回

 ヴィトールドはそんなシャルロットの表情を見て、答えを読み取った。「たとえそうだったとしても、彼らは幸せだったはずだ」
「だといいんだけど・・・」シャルロットは小さな声で言った。
 自分もその場にいたかった。そして、すこしでもシャルロットの慰めになりたかった。ヴィトールドはそう思った。
「間違いないよ」ヴィトールドは確信を込めて言った。
 シャルロットはゆっくりとうなずいた。「話を元に戻さなければ」かの女はそう言い、また遠くを見た。その表情は悲しみを帯びていた。
「・・・ごめんなさい。あのときのことを思い出すのはつらいの。あれは、次の日だったから・・・」シャルロットはかすれた声で言った。「クラコヴィアク解散コンサートの・・・」
 シャルロットはそこで苦しそうに一息ついた。しかし、他の3人にはシャルロットがそうしたことを完全には理解できなかった。彼らのうち誰も、その解散コンサートのことをよく知らなかったのである。コンサートの5日前、シャルロットたちはメンバーの一人を永遠に失った。そして、コンサート当日、もう一人のメンバーもシャルロットの前から姿を消していった。シャルロットは一人きりになってしまったのである。いや、厳密には、もう一人そばにいた。フェリックス=オルシャンスキーが。
「あの日、わたしたちはいつものように家庭教師と一緒に勉強をしていました。そこは続き部屋で、部屋にはドアが二つあり、その両方にボディーガードがついていました。もう一方の部屋では、フェリックスたちが自習していて、こちらの部屋の中にいたのはわたしと家庭教師だけでした。そこへ見知らぬ3人の男性が現われ、あっというまにそのガードを破り部屋に突入しました。ほんとうに、あっという間の出来事で、わたしたちは一瞬後には、両手を頭の後ろにくんで壁の方を向いていました」シャルロットは淡々とした口調で話し出した。ヴィトールドは知っていた。シャルロットがこんな風に話すとき、かの女が強い感情を抑えようとしていると言うことを。今かの女が抑えようとしている感情は恐怖だった。「3人組の一人は、何かを書いた紙を家庭教師に手渡し、部屋から出しました。部屋に残ったのは、ドアの前に立ってガードをしていた執事のヴォイチェホフスキーさんとわたしだけでした。リーダー格の少年は、わたしたちを自分たちの方に向き直らせ、自己紹介をしました。その少年こそ、フェリックス=ザモイスキーでした。彼は、あのとき、自分が19歳だと言いました・・・」
 シャルロットは何か考え込むように言った。「・・・それから9ヶ月後に彼がこの世を去ったなんて、今も信じられないわ・・・」
「彼は、自分の年齢まで話したの?」モジェレフスカ夫人---エヴァは不思議そうに訊ねた。
 シャルロットはうなずいた。「あのとき彼は、もう一度同じ過ちを繰り返してしまいました。ヴォイチェホフスキーさんを公爵だと間違えて侵入してしまったんです。あのとき、彼は1階上の階に行くつもりだったと言いました。でも、そんな間違いはあり得ません。わたしは、彼の嘘に気づかないふりをしていました。彼は自己紹介しました。そのとき自分が19歳だと付け加えました。ヴォイチェホフスキーさんが彼を挑発したので、彼はその挑発に乗ってしまったんです。彼は公爵を暗殺して逃げるつもりでした。でも騒ぎが大きくなってしまったので、作戦を変えました。わたしを人質にして逃げ延びようとしたんです。ですが、わたしは公爵に必死で訴えました。わたしの命などどうなってもいい、彼を捕まえて欲しいと・・・」
「でも、公爵は、あなたを助けようとした・・・?」エヴァが訊ねた。
「いいえ」シャルロットはほほえんだ。「彼は、みずから、わたしたちの乗っていた馬車にダイナマイトを投げつけました」
 3人は驚いてシャルロットを見つめた。
「なぜ彼はそんなことを?」ヴィトールドは代表して訊ねた。
 シャルロットはヴィトールドの目をまっすぐに見つめ、にっこりした。「あの瞬間から、わたしは彼の本当の娘になったんです」
 それでも理解できずにいる3人に、シャルロットは説明しようと試みた。
「チャルトルィスキー家に引き取られたとき、わたしは5歳でした。それまでわたしの面倒を見てくれていた父方の祖母は、わたしの父親は偉大なヴァイオリニスト・ウワディスワフ=スタニスワフスキーであると言い続けました。わたしは、彼の死後すぐに再婚してしまった母親をすぐに許すことはできませんでした。そして、再婚相手のチャルトルィスキー公爵を父親だと認めるのを拒み続けました。わたしはウワディスワフ=スタニスワフスキーの娘としてステージに立ち、ブロニスワヴァ=スタニスワフスカを名乗り続けました。養父は、いつの日かわたしが彼のことを父とみなしてくれるのを待ち続けました。わたしがポーランドに来てからすでに5年経っていました。それでも、わたしたちの距離は縮まってはいませんでした」シャルロットは言った。「あのとき、わたしは公爵に言いました。『わたしのことなどかまわず、彼を逮捕して』」
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ