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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第85章

第1552回

 シャルロットは一息つき、続けた。
「・・・彼は答えました。『何があっても、きみを犠牲にはできない』わたしはそんな彼に言いました。『もし、わたしがあなたの本当の娘だったら、あなたはそう考えるでしょうか? 自分の娘が、命がけで最後のお願いをしているのに、本当の父親だったらそれを拒めますか? お願い、あなたの娘の願いを聞き届けて。彼さえ逮捕されれば、彼がしてしまったことのために泣くのはあなたが最後になるわ。でも、そうしなかったら、これから先も彼のために泣く人が出るのよ。あなたは、不幸な人々をこれ以上泣かせないために政治家になったとおっしゃったじゃありませんか。あれは嘘だったの?』でも、彼は首を縦には振らなかった。わたしはもっと言おうとしたんだけど、その直後、わたしはフェリックスに引きずられるように部屋から出され、無理矢理馬車に乗せられました」
 そう言うと、シャルロットは少し悲しそうに笑った。
「馬車が動き出したとき、フェリックス=ザモイスキーはわたしにこう言ったわ。『あの男は、きっと馬車にダイナマイトを投げつけるだろう。だが、俺は必ずあんたを守る。何があっても、あんただけは助ける』驚いて彼の顔を見たとき、彼は言ったわ。『誤解するな。あんたがどうなろうと俺には関係がない。ただ、彼に恨まれると、今後仕事がやりにくくなるだけだからな』」
 エヴァは驚いてシャルロットを見つめた。かの女が知っているフェリックスは、昔からそういうものの言い方をする人だった。『誤解するな。あんたがどうなろうと俺には関係がない』・・・エヴァ自身、彼にこう言われたことが何度もある。彼がかの女を助けようとして何かをしたとき、お礼を言おうとしたかの女に彼が言う言葉だった。それは、照れたときの彼の常套句だった。彼は、あのとき本気でシャルロットを助けようとしていた。どういうわけか知らないが、確かにそう思っていたはずだ。エヴァには確信が持てた。
 フェリックス=ザモイスキーを知らない二人の男性たちも、その言葉を聞くと考え込んだ。彼の言葉の後半は、どう聞いてもいいわけにしか聞こえなかったからだ。
「・・・そして、彼は約束を実行しました。突然、彼はわたしを右手で軽々と抱き上げ、左手にお金の入ったトランクを持ち、御者席に飛び移ると、そこにわたしとトランクを置き、『体をできるだけ丸めろ!』と叫びました。その直後、ものすごい大きな音がしたのを覚えています。わたしは気を失ってしまいました。気がついたとき、わたしはフェリックス=ザモイスキーと一緒に馬に乗っていました。彼は、わたしの意識が戻ったのを知ると馬を止め、わたしを下ろしました。『たいした怪我はしていないはずだが、ちゃんと手当てをしてもらえよ。全く、あんたには負けたよ』というなり、馬を走らせました。馬はあっという間に姿を消しました」シャルロットは小さくため息をついた。「わたしは、もう一度意識を失ったようです。気がつくとそこは病院で、枕元に公爵が座っていました。『あんたには負けたよ、とフェリックスは言ったわ。ありがとう、パパ』わたしは彼にそう言いました。彼を<パパ>と呼んだのは、それが最初でした。彼もそれに気づいていたはずです。その言葉を聞くと、彼の目に涙が浮かびました。わたしは、彼の涙を初めて見ました。あのとき、わたしたちは本当の親子になった、わたしはそう確信しました・・・」
 3人はうなずいた。
「ですが、わたしが彼を父と呼んだのは、わずか2ヶ月に過ぎませんでした。フェリックス=ザモイスキーが次の犯行に及んだのは、その2ヶ月後のことでした・・・」シャルロットの声は急に沈んだ。その暗殺事件のことは、ずっと長い間忘れようとしていたことだった。その事件で、シャルロットの人生は大きく変化した。もし、あのとき、あの事件が起こらなかったら、自分は今もポーランドにいただろう。チャルトルィスカ公爵令嬢として、貴族の誰かと結婚させられていただろう。たとえばチャルトルィスキー家の血をひくアウグスト=ポニァトフスキーあたりと。アファナーシイ=ザレスキー氏が選ぶフィアンセだったら、ヴィトールドの従兄のライモンド=コヴァルスキーあたりだったのではないだろうか。同じ階級の人間なら、クラコヴィアクのフリーデリック=ラージヴィルも考えられなくはない相手だが・・・。
 クラコヴィアクのフリーデリック・・・。最後に彼と会ったとき、彼は立派な青年になっていた。あのとき彼は、まるで自分の恋人にするような情熱的なキスをした。そして、自分はもう少しで・・・。
 エヴァは、シャルロットの表情を見、ためらいがちに口を開いた。
「・・・あの・・・おつらかったら、ここまでにしましょうか?」
 シャルロットは、自分がとりとめのないことを考えていたことに気づき、ほおを赤らめた。
「大丈夫です・・・」シャルロットは心配そうに自分を見つめているエヴァにほほえんで見せた。「ありがとう。でも、わたしはお話を続けます」
 そう言うと、シャルロットは目を閉じた。目を開いたとき、シャルロットのまなざしは再び遠くを見ていた。
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