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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第87章

第1582回

 その年、ザレスキー夫妻はT城に移り住んで以来初めて、外部の人たちを一切招かずにクリスマスシーズンを過ごした。シャルロットは、オーギュスト=レヴィンと和解できる最後のチャンスだと思い、招待状を出してはみたものの、オーギュストからは欠席の短い返事が来ただけだった。その返事を受け取ったとき、シャルロットは、彼が来ないのだったらパーティを開く意味がないと決断したのである。
 クリスマス前日、双子が風邪をひいて高熱を出した。
 シャルロットは熱を出した子どもたちにつきっきりで看病していた。フェリシアンは父親を独占してしまい、乳兄弟のジェルマンは両親とともに過ごしている。スタニスラスは子ども部屋に一人取り残された。彼は、もともと自己主張が強い人間ではない。大好きな双子の弟たちのことで心を痛めつつも、心配を心の中に閉じ込め、一人きりでおとなしく部屋に閉じこもっているだけだった。
 その晩、ロジェは子ども部屋を訪れた。スタニスラスが一人きりでいると知っていたからだ。
 スタニスラスはロジェを見ると、うれしそうに笑った。ただ、今まで彼が泣いていたのは明白だった。真っ赤になった目を隠すことはできない。ロジェは、スタニスラスに声をかけた。
「よかったら、わたしの部屋に来てくれないか?」不思議そうに彼を見つめるスタニスラスに、彼はこう続けた。「・・・実は、一人じゃ寂しくってね」
 スタニスラスは、無邪気な笑顔を見せた。「大人なのに、一人じゃ寂しいの?」
 ロジェはにっこりして答えた。「大人だって、寂しいときはあるさ。だから、今晩は一緒にいてくれないか?」
 その晩、ロジェはスタニスラスを自分のベッドに寝かせた。そして、シャルロットがちいさかった頃の思い出話を始めた。シャルロットが生まれたときのこと。シャルロットが、ほんの赤ん坊の頃から文字に興味を持っていたこと。かの女に文字を教え、一緒に小説を書き始めたこと。ふたりのペンネームの由来・・・。スタニスラスは、賢い双子を見て育ったので、シャルロットがちいさい頃から賢い一面を見せたと聞いても驚かなかった。むしろ、思い出話を聞いたスタニスラスが気にしたのは、自分が双子のように賢くなかったことだった。
 ロジェはスタニスラスの告白を聞くと、笑い出した。
「きみが賢くないんだって? ばかばかしい」ロジェは言った。「確かに、きみが誰よりも賢い子どもだと言ったら言い過ぎだろう。双子は特別な才能を持っている。それは誰にも否定できない事実だ。きみが賢いかどうかを彼らと比較するのは間違っている。それは、きみが彼らほど<賢さ>という恵みを受けなかったからではない。人間はじつにさまざまな恵みを受けて生まれてくる。<賢さ>は、神さまが人間に与えて下さったたくさんの恵みの中の一つに過ぎない。<賢さ>というたった一つのはかりだけで自分を計ろうとするのは、とっても愚かなことだ。きみを正しく計ることができるのは、別のはかりだ」
 目を丸くしているスタニスラスに、ロジェは言った。
「自分を誰かと比較してはいけないよ。スタニスラス=ザレスキーという人間は、世界中に一人しかいないんだ。きみは、きみだからすばらしいんだよ」ロジェは優しく言った。「きみの両親は、きみが誰かよりも賢いからとか、誰かよりも優しいからきみが好きなんじゃない。きみがきみだから、きみを愛しているんだ。わたしは、世界中のどの子どもよりもきみが好きだ。だが、それは、きみが双子より賢いからでも、双子よりも優しいからじゃない。きみがこういう子どもだからだ」
 それを聞くと、スタニスラスは涙ぐんだ。
「・・・わたしは、これから大切なことをきみに話したい」ロジェは言った。「さっき、きみは、わたしが大人なのに一人じゃ寂しいの、と聞いたよね?」
 スタニスラスはうなずいた。「聞きました」
「いつか、きみが大人になったとき、思いだしてほしい。大人というのは、大きな子どもなんだと。ほんとうは、誰でも一人でいれば寂しいんだ、と言った人間がいたんだということを・・・」
 スタニスラスは小首をかしげた。「どうして、そんなことを言うの?」
 ロジェは簡潔に答えた。「もしかすると、誰もきみにそれを教えてくれないかも知れないから」
 スタニスラスは目を丸くした。
「きみに、きみのお母さまのことを頼みたいんだ」ロジェが言った。「わたしは、かの女の守護天使であろうとした。だけど、そろそろこの役割を、きみに任せようと思うんだ」
「どうして?」
「それは・・・」ロジェは、一瞬言葉につまった。彼は、『それは、まもなく、わたしはこの世を去るからだ』とスタニスラスに告げることはできなかった。彼は言葉を探した。「・・・それは、きみが、かの女の一番上の息子だからだよ」
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