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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第87章

第1588回

 シャルロットは短く答えた。「・・・いいえ」
 ヴィトールドはかの女をじっと見つめてから、「・・・本当に?」と訊ねた。
「再婚する気はない、と言ったはずよ」シャルロットは言った。「絶対に再婚はしたくないの」
 ただ、もし、どうしても再婚しなければならないとしたら、相手はコルネリウス以外には考えられない。そうすれば、近い将来生まれてくる子どもがたとえ女の子であっても、無理にロベール=フランショームと結婚する必要はなくなる。さらに、コルネリウスとの間に生まれてくるかも知れない娘は、ザレスキー一族でありフランショーム一族でもあり、なおさら結婚の選択肢が広がる。ザレスキー・フランショーム両家にこだわらず、どんな男性と結婚することも可能になる・・・。
 そもそも、自分とコルネリウスは幼い頃から婚約者同士だった。幼い頃から一緒に育った仲でもある。幼なじみで、一番親しい友人で、恋人だった。いずれは---もしかすると、思っているよりも長い時間が必要かも知れないが---自分たちならやり直せるに違いない。コルネリウスも頑固な性格だが、いずれはわかってくれるはずだ・・・。自分たちの間には、愛としか表現できない何かが育っていた。時間さえかければ、必ず修復できるはずだ。だけど、本当に彼と再婚することが正しいことなのだろうか?
 シャルロットはため息をついた。ヴィトールドにだけは、心の内を話すことはできない。自分が彼と結婚したことを後悔していると思われたくはないからだ。未だにコルネリウスを忘れることができないと思われたくはないからだ。いや、今もコルネリウスを愛していると誤解されたくはない・・・。
 シャルロットは深く沈んだ表情になった。かの女は、自分の心の奥底にある望みと恐れに気づいてしまったからだ。
 なんということかしら。わたしは、今でもコルネリウスを愛している。でも、今の自分はもう昔のような子どもではない。結婚するということがどういうことなのか---それに伴う義務についても---理解している。再婚して、コルネリウスの子どもを産むんですって? コルネリウスと、あの行為をしなければならないってこと?
 シャルロットは思わず身震いした。たとえコルネリウスが相手だとしても、そんなこと、考えるのも嫌だわ。それでも、一人でも子どもを産めば、あとは許してもらえるかしら・・・?
 かの女は心の中で葛藤したあと、返事をしないことを決めた。彼がこの沈黙の意味を察してくれればいいと思った。
 ヴィトールドはしばらくシャルロットの表情を見つめていた。彼には、シャルロットの仮面の下の表情を読み取ることはできなかった。読み取りたくはなかったのかも知れない。彼にとって、シャルロットが未だにコルネリウスを愛していると思うことは耐えられないことだった。だが、彼の立場では、もし自分が死んだら、否応なくかの女を誰かと再婚させなければならなかった。それが、ザレスキー一族の当主である自分の最後のつとめなのだ。かの女がフランショーム一族の誰か---たとえばコルネリウスやオーギュスト、いや、当主のフランソワ=フランショームという選択肢さえある!---と再婚すると考えるよりは、別の誰かと再婚して、いずれ生まれてくる娘がロベール=フランショームと結婚すると考える方が心理的に負担が少なかった。せめて、かの女が、コルネリウス以外の人間と再婚してくれれば・・・。
 そのとき、オーギュストは部屋に戻ってきた。そして、椅子に座っていたヴィトールドの前でひざまずいた。
「再婚してほしい。そして、その相手には、ぼくを選んで欲しい」オーギュストが言った。「きっと幸せにすると誓うよ」
 シャルロットとヴィトールドは、オーギュストが途中から会話を聞いていたことに気づいた。どのタイミングで戻ってきたのかはわからなかったが。
 二人はあっけにとられてオーギュストを見つめた。
 シャルロットはたしなめるように言った。「あなたはだめよ、ミュー。あなたは、わたしの代父ですもの」
 オーギュストは一瞬体を硬くした後、まじめに言った。「きみさえ承知してくれれば、どんなことでもするよ。ローマ法王に直訴して、二人の結婚を認めてもらうことだってやってみせる」
 ヴィトールドは、それを冗談だと受け取ろうとした。彼は、オーギュストに親しく呼びかけた。「ミュー・・・きみには、他のやり方でシャルロットを幸せにして欲しいと思っている。もしぼくが死んだら、どうか、シャルロットのささえとなって助けてあげて欲しい。きみは、ずっとかの女の姉だったんだろう? これからもずっとそうであってほしいんだ。そして、ぼくたちの子どもたちのことも守って欲しい。きみなら可能だ」
 そして、ヴィトールドは立ち上がり、オーギュストの手を取って頭を下げた。
「すまなかった、ミュー。きみの気持ちを誤解していた。許してはもらえないだろうか?」
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