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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第88章

第1608回

 スティーヴンは弁護士から手渡された書類をじっと見つめた。「なるほど、サインのある正式な書類ですね。もっとも、わたしには、ヴィトールドの筆跡はわかりませんけどね」
 そして、にっこり笑った。「ヴィトールド=ザレスキーという人物は、立派な遺言状を残しましたね。わたしの父の遺言状は、簡単すぎるものでした。本文が『全財産をシャルロットに譲る』というだけの、わずか1行の遺言状です」
 オーギュストが言った。「ドクトゥールの遺志は、シュリーとドンニィが結婚して、研究所を継ぐことだった。だが、きみは、彼の遺言通りにしていない。今からでも遅くはないから、きみは、ドンニィと再婚すべきなんだ」
 スティーヴンはまじめな顔をした。「なるほど、相反する遺言状が存在するわけですね。それではどうでしょう、シュリーとドンニィが結婚してミュラーユリュードに行き、子どもたちは10歳になるまでこの方に預けるという折衷案は・・・?」
「そんな、非現実なこと・・・」リオネル=デルカッセがつぶやいた。
「・・・そもそも、ドンニィというのは、どなたなんですか?」ライモンドが訊ねた。
「シャルロットの婚約者だった男性だ」オーギュストが言った。「ドナティアン=コルネリウス=ド=ヴェルクルーズ。かの女のいとこであり、わたしの母親違いの兄だ。スティーヴンの父親から見ると、ドンニィが甥で、シュリーが姪になる」
 ライモンドは穏やかに訊ねた。「その<元>婚約者が、どうしてこの件と関係があるんですか?」
「二人は未だに愛し合っているからだ!」オーギュストは叫んだ。
 シャルロットは真っ青になった。
「そうだろう、シュリー?」
 オーギュストの言葉を聞き、全員がシャルロットを見つめた。
「わたしは・・・」シャルロットは言葉に詰まった。かの女の唇は震え、それ以上の言葉が出てこなかった。
「素直に認めるんだ。きみはずっと彼を愛していたんだろう?」
 シャルロットは涙ぐみ、床の方に目を落とした。
 リオネル=デルカッセは冷静な口調で口を挟んだ。「もうやめるんだ、ミュー。きみは、かの女を苦しめたいのか?」
 オーギュストははっとして下を向いた。
「彼らが亡くなったばかりの今、難しい決断を迫る必要はない。とにかく、無事に出産を終えてから、今後のことをゆっくり話し合おう」リオネルが言った。「もちろん、そのときには、ドンニィにもこの場に参加してもらう。それでどうだろう?」
「・・・彼が来るものですか」シャルロットがつぶやいた。
「ドクトゥール=ダルベールに、首に縄をつけてでも引っ張ってこさせます」スティーヴンが答えた。
 そう言うと、スティーヴンは真顔になった。「・・・ところで、ヴィトールドの遺言状は、これで終わりではないようです。追記事項を朗読しますか?」
 ラトゥール氏はうなずいた。
「《追記:以上の遺言は、3月4日現在、7月頃生まれてくる予定になっているシャルロット=ザレスカ伯爵夫人の子どもが女の子である場合に有効な遺言である。生まれてきた女の子は、ロベール=フランショームと結婚させるべくなるべく早いうちに婚約させるよう付け加えておく。かりに、子どもが男の子だった場合は、伯爵夫人に3つの選択肢を与える。一つは、最初の遺言の通りポーランドに子どもたちを連れて行き、ザレスキー家の跡取りとして立派に育てること。その際は、将来男の子たちの誰かを、将来生まれてくるであろうフランショーム一族の娘と結婚させるよう導くこと。二つ目は、かの女が再婚し、生まれた女の子をフランショーム一族の誰か---できれば、ロベール=フランショームが一番理想的だが---と結婚させること。最後の選択肢としては、かの女自身がフランショーム一族の誰かと再婚すること》」スティーヴンは一気に読み上げた。
「《フランショーム一族の誰か》」オーギュストはおうむ返しに言った。そして、スティーヴンに確認した。「誰と明記されていないのか?」
「ええ」スティーヴンが答えた。「たぶん、あらためて確認する必要がなかったからでしょう」
 オーギュストは顔をしかめた。「現在、シャルロットと釣り合いがとれる年齢のフランショーム一族の男性が3人いても、そう言えるのか?」
 スティーヴンは笑顔になった。「どの男性がもっともふさわしいか、さっき、きみ自身が断言したじゃないか」
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