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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第88章

第1612回

 その晩、主人公は思いきった行動に出た。ヴィルジニーに睡眠薬入りのコーヒーを飲ませ、かの女が意識しないまま一晩を過ごしてしまうのだ。そして、部屋を出るとき、わざと万年筆を床に置いた。
 その晩かの女が一人きりではなかったことを暗示する万年筆を見つけたのは、ユージェーヌだった。彼は、主人公に万年筆を返す。『廊下に落ちてましたよ』と言って。その言葉は、主人公とユージェーヌの間の宣戦布告だった。万年筆は、ヴィルジニーの部屋の床にあったはずで、廊下ではない。ユージェーヌが正しい場所を告げなかったということは、彼が自分とヴィルジニーの仲を疑っていることを意味する。さらに、ユージェーヌは、ヴィルジニーとの結婚を急いだ。
 新婚旅行から帰ってきた二人に、主人公は睡眠薬の入ったコーヒーを出す。まさかコーヒーに何か入っているとは夢にも思わず、ユージェーヌはコーヒーを飲んだ。そのあと彼は主人公と口論し、怒り狂って部屋を出て行く。彼は頭を冷やそうと車に乗り、事故を起こしてそのまま帰らぬ人となった。主人公は、未亡人となったヴィルジニーと二人、館に残された。そのとき、ヴィルジニーのおなかには、新しい命が宿っていた。やがて、ヴィルジニーは女の子を出産した。かの女にそっくりな女の子を・・・。
 シャルロットは、本を閉じ、考え込んだ。自分が聞いた話とは少し違うような気がする。ロジェは、出版する際にストーリーを少し変更したのだろう。それでも、彼はストーリーの根幹は変えなかったはずだ。ヴィルジニーの子どもは、ほんとうは主人公の子かもしれないと暗示して小説は終わるのだ。そのストーリーに対しヴィトールドは激しく嫉妬し、3人の間の亀裂に気づいたドクトゥール=ロッシェルは、自分たちに<新婚旅行>を命じたのだった。
 だが、なぜこんな話に、ヴィトールドは過剰反応したのだろうか? スターシェックがヴィトールドにあまり似ていなかったから・・・?
 ・・・。
 ・・・万年筆・・・?
 自分とヴィトールドが結ばれたあの晩、ロジェとココアを飲んだのは覚えている。翌朝---というか、昼に近い時間だったが---テーブルの上にあった万年筆を返しに行ったとき、あのあと疲れて眠ってしまった自分をベッドに運んでくれたのだと彼は言っていた。ココアのカップを片付けたときに万年筆を忘れていったのだろう、と言って彼は笑った。
 かの女はその情景を急に思い出し、首をひねった。
 万年筆を床に置いた。
 万年筆が廊下に落ちていた。
 いや、あの日、万年筆はテーブルの上にあった。間違いなく、自分はテーブルの上で彼の万年筆を見た。
 シャルロットは真っ青になった。
 まさか・・・。
 あの晩、シャルロットはコルネリウスの夢を見た。かの女は泣きながら彼に謝罪し、彼はかの女を慰めた。彼は許しの言葉をかけながら、かの女の全身を優しく愛撫した。あんなに優しい愛の行為は、夢でしか知らない。夢の中のコルネリウスは本当に優しく、その夢を見た後、シャルロットはずっと罪の意識を感じていた。あんな親密な行為をヴィトールド以外の男性としてしまうとは、たとえ夢であっても許されないことなのではないだろうか、と。実際の行為より夢の中での方がすばらしかったなんて、ヴィトールドに対する裏切りなのではないだろうか、と・・・。
 まさか、それが、夢ではなかったとしたら?
 本当に、あのときのココアに睡眠薬が・・・?
 あの晩、自分は、ロジェとあの行為を・・・?
 そういわれてみれば、あれは、夢にしては、あまりにも生々しい夢だった! やはり、わたしとロジェは、あの晩・・・。
 シャルロットは床に座り込んだ。足に力が入らなかった。
 わかったわ。だから、スターシェックが誰に似ているのか、あの二人はずっと気にしていたのね。わたしは、ヴィトールドともロジェとも血がつながっている。スターシェックは二人のどちらとも似るはずだし、それは当然のことだ。だけど、ヴィトールドはスターシェックが母親似だと主張し、ロジェは自分の母親と同じ目をしていると考えた。だが、母親の自分から見て、スターシェックはザレスキー一族であっても、フランショーム一族ではない。スターシェックは間違いなくヴィトールドの子どもだ。
 シャルロットは、机の引き出しに戻り、引き出しにあったロジェの日記帳を全部出した。そして、年代順に一冊ずつ読んでから、読んだ順に暖炉にくべた。一冊残らず、全部を。
 かの女は、彼の人生の全部を知った上で、彼の罪を許した。
 かの女は、彼の思いをすべて自分の胸にしまった。最初の小説を一緒に書き、最後の小説を一緒に書いたかの女のガルディアンは、今、本当の守護天使になった。そして、彼は、自分の中でずっと生き続けるだろう。かの女はそう思った。
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