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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第89章

第1619回

 同じ頃、子どもたちは全員子ども部屋にいた。<子どもたち>といっても、部屋にいたのは5人である。
 シャルロットがスタニスラスを生んだとき、出産直後に体調を崩してしまったため、彼には乳母がつけられた。ほぼ同じ頃出産した小間使いのマリー=ベニエが、自分の子ども(ジェルマン=ベニエ)と一緒にスタニスラスを育てた。マリー=ベニエは小間使いから乳母に取り立てられたことになる。
 ザレスキー夫妻やロジェは、乳兄弟であるスタニスラスとジェルマンを差別せず、本当の息子同様に扱った。そればかりではなく、シャルロットは、マリーにもシャルロットのすべての子どもたちを自分の息子と同等に扱うようにさせた。そのため、マリーだけはどの子どもたちも<ぼっちゃま>とは呼ばない。こうして、ジェルマンは、屋敷内の誰からもシャルロットのほかの子どもたち同様の扱いを受け、スタニスラスとジェルマンは、まるで双子のように育った。
 スタニスラスを例外とし、シャルロットは残りの3人を自分の手で世話をしたため、彼らには特別に乳母や乳兄弟という存在がいなかった。ただ、シャルロットが忙しかったりするときには、マリーが母親代わりに彼らに付き添った。さらに、シャルロットの乳母でもあるフェリシアーヌ=ブーレーズがその役割につくこともある。子どもたちはまだ幼かったので、その状況を違和感なく受け入れていた。
 知らない人が見ると、この家には双子が二組いるかのようだった。本当の双子たちにとっては、スタニスラスとジェルマンは二人とも兄のようなものだった。こうして、子ども部屋の構成人員はたいてい5人だったのである。そして、誰もそれを不思議がることはなかった。
 マリーは、いずれは自分の息子にスタニスラスとの間の<身分差>を教えるつもりではいた。しかし、シャルロット自身は、まだ5歳にもならない子どもたちにそれを教えるのは時期尚早だと思っていた。さらに言うと、シャルロットは、ベニエ夫妻にはまだ何も相談はしていないが、賢いジェルマンを自分の息子と同じように教育しようと思っていた。スタニスラスと一緒にサント=ヴェロニック校、そして大学へ進学させたいと考えていたのである。
 シャルロットは、ジェルマンの中に、かつての幼なじみであるドニ=フェリーの姿を見ていた。能力がある人間は、その能力にふさわしい教育を受けるべきだ---これは、ヴィトールドの考えでもあった。かの女は、時期が来たら---彼らが学校へ行くようになったら---ベニエ夫妻に自分の意見を言うつもりでいた。シャルロットは、あくまでも二人を同等に扱うつもりだったのである。二人は生涯を通しての友人同士になるべき存在だったからだ。乳兄弟であったチャルトルィスキー公爵と執事のヴォイチェホフスキーのような関係ではなく、もっと平等な関係をシャルロットは夢見ていた。
 さて、その日、子どもたちは子ども部屋で夕食を取った。シャルロットの出産で、大人たちがいつも以上に忙しかったからだ。5人に付き添ったフェリシアーヌは、『今晩はシャルロットとマリーはお休みの挨拶に来ることができないかもしれないので、ライモンドかオーギュストが寝る前に絵本を読みに来ると言っていた』と話した。子どもたちは二人のどちらも好きだったが、一番大好きだったのはスティーヴンだった。彼らは、一様にがっかりしたような声を出したが、フェリシアーヌは言った。
「アレックさまは、用事があってお出かけになったんです。だから、今晩は、お二人のどちらかがお見えになります」
「ぼく、レックおじちゃまがいい」珍しくヴィクトールがだだをこねた。
「ぼくも」アレクサンドルも言った。となりでフェリシアンも足をばたばたさせた。
 フェリシアーヌは困ったという表情を浮かべ、年少の3人を見た。スタニスラスとジェルマンは黙ったまま、3人を取りなそうとはしなかった。それで、かの女もきっぱりと言った。
「だめです、ぼっちゃまがた。わかりました。今晩は、特別にムッシュー=ベニエに来ていただきましょう」
 それを聞くと、ジェルマンはぎくりとしたようにフェリシアーヌを見た。
「よろしいですね、ぼっちゃまがた?」フェリシアーヌはそう言うと、食べ終えた食器をトレーに乗せ、部屋を出て行った。
 5人はまだ驚きさめやらぬ表情を浮かべてドアを見つめていた。
 ジェルマンが言った。「諸君、名君の条件は、引くべき時を心得たもののことを言うんだ」
 彼があまりにもヴィトールドそっくりの口調で言ったので、ほかの子どもたちは笑い出した。
「いいかね、諸君。われわれは、マダム=ブーレーズを出し抜く必要があるのだ」ジェルマンは芝居がかった調子でそう言うと、スタニスラスの耳元でこうささやいた。「・・・大人たちが出て行ったあとで、ぼくたちだけで赤ん坊を見に行こうよ、ね?」
 スタニスラスは、そっとウィンクを返した。
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