FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第89章

第1623回

 子どもたちを寝かしつけようとしてシャルロットが子ども部屋に入ったとき、3人の男の子がベッドの上で騒いでいるところだった。半泣き状態だったフェリシアンを、上の二人がからかっているようだった。
 ドアが開く音を聞いて、双子が振り返った。彼らはおかしな顔をしていた。
「まあ!」シャルロットは彼らをにらみつけながら言った。「ヴァイオリン=ケースには触っちゃだめ、って言っていたはずよね?」
 双子はしょげかえり、ベッドから降りた。一人ベッドの上に取り残されたフェリシアンもしょげかえっていた。
 シャルロットのヴァイオリン=ケースの中には、さまざまな物が入っている。12歳で亡くなった友人、スタニスワフ=レシチンスキーがチェロケースの中に隠し持っていたいたずら道具の数々をシャルロットは自分のヴァイオリン=ケースの中に入れ、大切に保管していた。双子は、その中の二つのマスクを取り出したようだ。昔、クラコヴィアクの3人---シャルロット、スタニスワフ、フリーデリック---は、一緒に劇を見に行ったことがあった。スタニスワフの知り合いの若い俳優がフランケンシュタインを演じるということだった。彼は大きな役をもらったのはこれが初めてで、3人が興奮して彼の演技を褒めたのを心から喜んだ。彼は、スタニスワフにマスクをプレゼントした。一つは本物そっくりに顔がただれたマスクで、もう一つはたった今演じたばかりのフランケンシュタインのマスクだった。喜んだスタニスワフは、彼の目の前でフランケンシュタインのマスクをつけ、たった今見たばかりのフランケンシュタインを演じて見せた。それを見た監督は、『大きくなったら、ぜひ、うちの劇団へ』と言い、3人は笑い転げた・・・。それ以来、スタニスワフはほかの子どもたちをからかうのに、二つのマスクを交互に使った。もしかすると、もし彼があの事故で命を落とさなかったら、音楽家ではなく俳優になっていたかもしれない・・・シャルロットは、何度かそう考えたことがある。ほんの少しだけ、かの女は懐かしい思いに浸った。
 しかし、今は、子どもたちに甘い顔を見せる場面ではない。シャルロットは再び彼らをにらみつけた。
「ごめんなさい」フェリシアンがシャルロットに抱きつきながら言った。「オーレックもジュスティーも、ぼくが頼んだからやってくれたんです。お願い、彼らをしからないで」
 シャルロットはもう一度双子を怖がらせる視線を送った後で、優しくフェリシアンを抱き上げた。
「ぼくたち、さびしかったの」フェリシアンは、どんな人間をもとろかしてしまうくらい優しい笑みを浮かべた。シャルロットも、あっという間にその笑みに陥落した。
「ごめんなさいね、ずっとそばにいられなかったから、寂しかったのね?」シャルロットはフェリシアンを抱きしめた後、双子に手をさしだした。アレクサンドルとヴィクトールはためらいもせずに母親の腕の中に飛び込んだ。
 双子が同時に母親に抱きつくことは珍しかった。シャルロットは、よほど彼らが寂しい思いをしたのだと思った。
「今日は、わたしがあなたたちに本を読んであげようと思ったの」そう言うと、シャルロットは子どもたちから離れ、辺りを見回した。「・・・ところで、スターシェックとジェリーは?」
 3人は黙ったままお互いに見つめ合った。
 シャルロットの顔が再びきつくなったので、子どもたちは震え上がった。
「・・・あなたたちが心配することはないわ。ただ、あの子たちには、罰を与えなくてはならないわね」シャルロットが言った。
 そして、かの女は小さな子どもたちにベッドに入るように言った。
 そのとき、ノックの音がしてリオネル=デルカッセが顔を出した。「下の階で、ちょっとした騒ぎが起こっているようだ」
 シャルロットは、リオネルがドアを開けたとき、異変を感じた。「・・・食堂で、何か焦がしたのかしら?」
「それにしては、煙がひどい。いったん外に出た方がいいかもしれない」リオネルが言った。
 シャルロットは顔をしかめた。「スターシェックたちがいないの。きっと、下に何か食べ物を探しに行ったんだわ。ちょっと様子を見てきます。リオネル、3人をお願いします。彼らを安全なところに連れて行ってください」
「いや、きみが3人を連れ出した方がいい」リオネルは言った。
「あなたじゃ、彼らを見つけることはできないわ。彼らはきっと、夜食が置かれている戸棚の近くにいるはずだわ。わたしが彼らを探します。だから、この子たちをお願い」
「わかった。だが、下はすごい騒ぎになっている。子どもたちはきっと誰かが連れ出したんじゃないかな?」そう言いながら、リオネルはフェリシアンを抱き上げた。「さあ、行くよ」
 アレクサンドルは黙ってリオネルのそばに行った。ヴィクトールは一瞬母親について行きたそうな顔をしたが、しぶしぶリオネルに従った。それを見て、シャルロットは彼らと反対の方向へ走り出した。
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ