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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第89章

第1624回

 シャルロットが階段にたどり着いたとき、階段の下の方は煙のためによく見えなくなっていた。リオネルの言うとおり、子どもたちがもし台所にいるとすれば、すでに連れ出されたに違いない。1階にいる息子たちは心配いらないだろう。問題は、2階にいる赤ん坊の方だ! 生まれたばかりのアンジェリークが無事かどうか、シャルロットはどうしても確かめたかった。かの女はポケットからハンカチを出し、口に当ててから階段を駆けおりた。火は上がってきてはいない。煙を吸わなければなんとかなる。
 ドアを開けたとき、シャルロットは自分の考えが甘いことに気づいた。部屋はすでに火の海だった。そして、椅子か何かを使って壊された窓のすぐそばに、一人の女性が倒れていた。そして、誰かが倒れた家具の下敷きになって倒れていた。
 シャルロットは、女性を起こして二人で窓から脱出しようと考えた。そのとき、家具の下から男性のうめき声が聞こえた。その声には聞き覚えがあった。
「ライ?」シャルロットはびっくりして声をかけた。
「ブローニャ・・・無事だったのか?」家具の下から弱々しい返事が返ってきた。「・・・じゃ、あれは誰だ?」
「そんなことより、あなたが心配だわ。どうしたの?」
「あの女性がきみだと思った。家具の下敷きになりそうだったかの女と赤ん坊を助けようとして・・・」ライモンド=コヴァルスキーはつぶやくような低い声でそういった。「赤ん坊は、ミューが連れ出した。あの女性は・・・頭に家具があたって気を失っている・・・と思う」
 シャルロットはライモンドを家具の下から出そうと思った。だが、一人では難しい。かの女は倒れている女性のそばに行った。かの女を起こして、一緒に家具を動かせれば、と思ったのである。かの女は女性を抱き起こそうとして、女性がすでに死んでいることに気づき、短い叫び声を上げた。
 かの女は慌ててハンカチを落としたため、煙を吸い込む結果となった。かの女は咳き込み始めた。大変だ。このままでは自分たちは助からない。シャルロットは咳き込みながらライモンドのそばに戻ろうとした。そのとき、椅子がかの女の目に入った。もしかしたら、これをテコにしてライモンドを助け出せるかもしれない。シャルロットは彼と家具の隙間に椅子を差し込んだ。どうにか広がったスペースから、シャルロットはライモンドを引っ張り出した。
 そのとき、ライモンドは泣いていた。
「・・・もういいんだ。頼む、一人で逃げてくれ」ライモンドはかすれた声で言った。
「一人で行けるわけないわ」シャルロットは答えた。「さあ、一緒に窓のところに行きましょう!」
 ライモンドは唇をかんだ。「骨折したのかもしれない。もう歩けないんだ」
 シャルロットは彼に肩を貸そうとした。だが、彼は立ち上がることもできなかった。
「・・・頼む、きみだけは助かってほしいんだ」ライモンドはそういった。
「わたしだけが逃げることはできないわ」シャルロットは言い返した。「あなたが逃げられないのなら、わたしは最後まであなたのそばを離れない。自分だけ助かるつもりはないわ」
「愛している。だから、一人で逃げてくれ。そして、ぼくの分も生きてくれ」ライモンドはシャルロットの手を取った。「きみは、ヴィトールドの分もぼくの分も長生きしてくれなくては困る。ちょっと不本意だが、あの大男と一緒に生き延びて、どうか幸せになってほしい」
 シャルロットの目に涙がたまった。「アンジェリークには、ミューがついているわ。わたしは、ヴィトールドのところに行きます。あなたと一緒なら、死ぬのも怖くないかもしれないわ。わたしには、あなたを見捨てて逃げることはできない。だって、あなたたちはわたしとアンジェリークを助けようとして火の中に飛び込んできたんでしょう? わたしには、あなたを助けることができない。だったら、一緒にヴィトールドのところに行きましょう」
 ライモンドは目に涙をいっぱいため、激しく首を振った。「だめだ!」
 しかし、シャルロットはライモンドを抱きしめた手を離さなかった。
 やがて、ライモンドはあきらめたように静かに目を閉じた。「・・・きみの腕の中で死ぬことができて、思ったよりも悪い人生じゃなかったんじゃないかと思えてきたよ。ヴィテックよりも先にきみに出会いたかったなあ・・・。好きだったんだ、初めてきみを見たときから・・・あのとき、きみはまだ5歳だったけど・・・あれからぼくの人生に、きみ以外の女性は存在しなかった・・・」
 そう言うと、彼は本当に気を失ってしまった。
「死んじゃだめ、ライ!」シャルロットはハンカチを口から取り、大声で叫んだ。「そんなの、いや!」
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