FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第89章

第1631回

 その言葉を聞くと、スティーヴンの表情に困惑が浮かんだ。
「わたしの聞き違いでなければ、あなたのターゲットはわたしだった・・・?」スティーヴンが訊ねた。
「そのとおり。30年前に、赤ん坊だったあんたを屋敷から連れ出したのはわたしだ。24年前に、ルイ=フィリップさまとアレクサンドリーヌ夫人を殺そうとしてワインに毒を入れたのもわたしだ」
「あなたたちは、共犯者だった・・・?」リオネルは目を丸くした。その表情はミシェルには見えなかったが。
「違う!」ミシェルが言った。「かの女は、わたしの手先みたいなものだ」
 誰も何も言わなかったので、ミシェルは続けた。「あの女が赤ん坊を窒息死させた理由はわからない。聞いたこともなかったから。たぶん、恨みだったんだろう。かの女の主張によれば、かの女は公爵家の私生児だったと言うことだったから・・・」
「それは、事実です」スティーヴンは口をはさんだ。
「事実であろうとなかろうと、わたしが知っているのは、かの女が赤ん坊を殺したことだけだ」
「つまり、あなたは、それをネタにしてかの女を脅して、次の犯行の実行犯にしたということだね?」リオネルが冷静な口調で訊ねた。
「つまり、まあ、そうだな。ワインに毒を入れるのに、わたしが関わっていると知られたくなかったんでね。同じ理由で、食べ物に毒を入れることはしなかった。わたしは、最後まで捕まりたくはなかった。だから、実行者としてかの女を利用した」ミシェルが言った。
「あなたが恨みを持っていたのは、わたし個人ではなかった」スティーヴンが言った。「あなたは、わたしのほかに、父や母の命も狙ったという。どうしてなんですか?」
「わたしは、マルグリートさまの乳母の息子だった・・・」
「マルグリートさま? マルグリートおばさまのこと?」スティーヴンが訊ねた。
「そう、マルグリート=ド=ティエ=ゴーロワさまのことだ」ミシェルが答えた。「優しくて美しく、とても賢い方だった。でも、病気がちで、わたしはかの女が喜ぶことを何でもしようとした。ジュヌヴィエーヴさまのように賢くなかったので医者になってかの女を治すことはできないと思った。アレクサンドリーヌさまのように音楽を演奏してかの女を慰めることもできなかった。だから、わたしは料理人になって、かの女においしい食事を食べさせたいと思ったんだ。そして、わたしは故郷を離れ、修行に出た・・・」
 スティーヴンは小さくうなずき、先を促した。
「帰ってきたとき、マルグリートさまは重い病気にかかられていた。アレクサンドリーヌさまが、お嬢さまの愛する男性と結婚したため、ショックで寝込まれたのだと聞いた。わたしは、マルグリートさまを苦しめた人たちを苦しめようと決心した」
「・・・そして、生まれたばかりのわたしを、両親から引き離した・・・?」
 ミシェルはうなずいた。「だけど、お嬢さまは、あんたを殺すことはできなかった。といって、ご自分で育てることもできず、ノルマンディーの親戚に預けられたんだ。《この子の名前はアレクサンドル=フィリップ=マリーです》という置き手紙だけを残してね。でも、あの人たちは、それでも子どもの正体には気づかなかったようだった・・・」
 スティーヴンは短くため息をついた。
「アレクサンドリーヌさまは、子どもの失踪を、それはそれは悲しんでおられた。その後、噂で、夫人がもう二度と子どもができない体になったと聞いた・・・」
 スティーヴンは目を丸くした。
 ミシェルは肩をすくめた。「使用人は、屋敷の主人が隠そうとした物事のほとんどを知っている。そんなものだ」
 そう言うと、彼は話を続けた。「にもかかわらず、かの女は再び身ごもった。そして、女の子を出産した。わたしは、その子どもにも何かをしようと観察することにした。そんなとき、わたしはあの女が赤ん坊をうつぶせに寝せるのを見た。わざと枕に頭を押しつけたのもね。それからは、ジェルメーヌはわたしの言うなりだった・・・。自分が表に出なくてもいいとなって、わたしは、次の犯行を思いついた。ワインに毒を入れることを・・・」
 それでも誰も何も言わなかった。
「わたしは、マルグリートさまに手紙を書いた。アレクサンドリーヌさまの誕生日に、屋敷でできたワインを送ってほしいと。そして、その使用目的も知らせた。マルグリートさまは、犯行時に使う短い手紙を同封してくださった。《次は、あなたと娘の番です》という短い犯行予告状をね。わたしは、子どもがすり替わっていることをマルグリートさまには知らせなかった。マルグリートさまが次に狙うのは、小さな子どもの方だとフィルさまに思わせたかったからだ。それほどまでに、彼はあの子を愛していた・・・」
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ