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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第90章

第1638回

「ジェリー・・・ぼくの兄さん・・・アレックと一緒にフランスに行かないか?」
「兄さん、だって?」ジェルマンは目を丸くして言った。
「ぼくたちは、ずっと兄弟のように暮らしてきた。だけど、これからは、ぼくの本当の兄さんになってくれ、ジェリー。そして、ずっと一緒に暮らそうよ、ね?」
 ジェルマンは、涙をためた目でスタニスラスを見つめた。しかし、彼は即答しなかった。
 あの火事の日、スタニスラスとジェルマンは、階段を降りていくベニエ夫人の姿を見ていた。彼らはかの女に気づかれないように階段を降りた。それから少しして煙が上がり、ベニエ夫人が駆け去るのを二人は見た。二人はそのまま逃げた。厩舎の方角へ。ジェルマンの父親の姿を求めて。しかし、厩舎には誰もいなかった。彼らは、以前ジェルマンが見つけた<秘密の通路>に向かった。そこからシャルロットの部屋に行こうとしたのである。中に入ろうとしたとき、二人の女性の声がした。そのうちの一人はジェルマンの母親だった。彼らは中に入るのを断念し、そのまま隠れた。しばらくして、シャルロットの部屋の秘密のドアを誰かが開けようとした。彼らは慌てて<秘密の部屋>の一つに隠れた。ただし、二人は、その部屋のドアが中から開かないことを知らなかった。そのため、彼らはそこに閉じ込められてしまったのだ。結果的に、二人はそこにいたからこそ命拾いしたのだが。賢いジェルマンは、祖母が屋敷に火をつけようとしたことに気がついていた。スタニスラスはジェルマンに比べて精神的に幼かったので、ベニエ夫人が屋敷に火をつけたのではないかとは思ってもいないようだった。
 ジェルマンは、スティーヴンに、祖母がしたことを告げたかった。スティーヴンなら、彼の言い分にきちんと耳を傾けた上で、祖母のしたことを許してくれるに違いない。自分を息子にしたいと言ってくれたくらいだから・・・。ジェルマンは、スティーヴンの愛を信じたかった。しかし、ジェルマンはためらった。今ここで告白を始めたら、スティーヴンだけではなく、自分を兄と慕うスタニスラスをも傷つけてしまう。自分の祖母は、スタニスラスの母親と弟たちを殺してしまった。取り返しのつかない事実だ。しかし、スタニスラスがそれに気づいていない以上、自分が話すことでさらに彼を悲しませることはできない。今自分ができることは、何も知らずに自分を兄だと呼んだスタニスラスを、弟と思って守っていくことだ。いつかは彼の耳にもそれが入ることだろう。裁きは、そのときに受けよう・・・。
 しかし、スティーヴンの方は告白を続けた。ほかの誰かの口から聞かされるよりも、自分が先に彼らの耳に入れなければならないと思ったからだ。ただ、詳しい説明は避けた。
「シャルロットとベニエ夫妻は、シャルロットの部屋で発見された。マリーさんは、シャルロットの部屋を片付けているところだった」
 二人はうなずいた。彼らは、マリー=ベニエがシャルロットの部屋にいたのを知っていた。そのとき、確か、若い看護師も一緒だったはずだ。二人は、アンジェリークをあやしながら話をしていた。おそらく、シャルロットはそのあとに部屋に戻ってきたのだろう。
「火事に気づいたオーギュスト、ライモンド、マルクさんは、慌ててシャルロットの部屋に飛び込んだ。そのとき、大きな家具がシャルロットを直撃した。ライモンドはとっさに家具を受け止めようとした。そして、大怪我をしてしまった。シャルロットは頭を打ってそのまま助からなかったらしい。それを見たオーギュストは、かの女が守り抜いた赤ん坊を抱いて窓から飛び降りた。赤ん坊は無事だったが、彼は助からなかった。そして、マリーさんを助けようとして、マルクさんも部屋で亡くなった。あとになって、デルカッセ医師が瀕死の状態のライモンドと看護師のデュラスさんを助け出した。ほかの人たちは全員、医師が駆けつけたときには、すでに亡くなっていたそうだ・・・」
 子どもたちは下を向いた。
「翌朝、ぼくたちは、遺体で発見された人たちのところに行った。ジェルメーヌさんも一緒だった。ぼくは、ジェルメーヌさんに、ずっと秘密にしていたかの女の家族の話を聞こうとした。そのとき、料理人のルノワールさんが包丁を持ってぼくを襲おうとした。ぼくのすぐそばにいたジェルメーヌさんは、ぼくをかばって刺された・・・そして、ぼくの腕の中で亡くなった。ぼくは、ジェルメーヌさんに命を救われたんだ。かの女は最後に言い残した。アンジェリークは、秘密の部屋に閉じ込められている。入り口は図書室にある、と・・・。ぼくは、アンジェリークを助けると誓った。そして、ジェルマンをかの女の分も大切に育てる、とね。ぼくは約束は守るよ」
 ジェルマンは真っ赤になった目をスティーヴンに向けた。
「・・・ぼくが言いたいことはこれで全部だ。返事は急がないよ。じっくり考えて決めてほしい。大事なことだからね」スティーヴンは優しくそう言って、ジェルマンを軽く抱擁してから部屋を出た。
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