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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第90章

第1646回

 火事の犠牲者の追悼式は合同で行われた。その後、遺体はそれぞれの遺族に引き取られた。スティーヴンは、ド=ルージュヴィル家の墓地に、シャルロットだけではなく、遺体が見つからなかった小さな3人の子どもたち、ベニエ家の犠牲者3人の墓を建てた。もちろん、墓石には本名の<ド=ヴェニエ>と刻んだ。
 スティーヴンと子どもたちが墓地から去ったあと、リオネル=デルカッセが墓地に現れた。彼は、3人の男性を連れていた。そして、手順通り、少し前に埋葬された遺体の一つをその場から移動した。彼らがいなくなったあとで、車いすに乗った男性と黒いヴェールで顔を覆った女性の二人組が墓地に到着した。二人---シャルロットとライモンド---は、何事もなかったかのように墓地を元通りに見せかけるため、まだ新しいたくさんの花束をきれいに並べなおし、自分たちが持ってきた花を手向けた。
 ライモンドが持ってきた花束は、ヴィトールドの墓の前に置かれた。
「ヴィテック」ライモンドは、まるで小さな子どもに話しかけるような口調で声をかけた。「ひさしぶりだね。やっときみに会えた」
 そして、顔だけ振り返った。「・・・たしか、20年ぶりの再会だ」
 シャルロットは驚いたように目を見開いた。
「わたしは、ローザンヌにやってきて以来、わざとここには来なかった。だが、きみに会いたくなかったわけじゃない・・・」ライモンドは、普段の調子で続けた。今度は大人に向かって話しかけるような調子だった。「ここに来るときには、きみにきちんと話がしたかった。わたしは、いつだってきみにお願いされてばかりだった。きみは勝手にポーランドを飛び出した。おじいさまのことをよろしくと言い残して。わたしは、きみのかわりにザレスキー氏のそばにいた。きみのかわりに彼を看取った。ユーリアと一緒にね。だけど、本当は、きみとユーリアがあの場にいなければならなかったんだ」
 しかし、ヴィトールドは祖父の臨終の際、彼のそばにはいなかった。さらに、彼がヴィトールドの妻にと望んでいたユーリアも、すでに別の男性と結婚していた。
「きみたちは---きみも、ザレスキー氏も、ユーリアも、みんな頑固者だ」ライモンドはそう言って苦笑した。「そして、きみの奥さんもだよ。かの女は、今も、わたしの心からの頼みを聞いてはくれないんだ・・・」
「ライ・・・」シャルロットはそっと声をかけた。
「わたしがここに来るときは、きみに報告をするときだと思っていた。きみとの約束を守ると。きみがこの世に残していった人たちを、きっと幸せにしてみせるときみに言うためにここに来たかった」ライモンドは優しく言った。「きみが望んでいた形ではないかもしれないが、わたしはきみの大切な人たちを守る。たとえ自分の命をかけても、わたしはきみの宝を守り抜く。・・・シャルロットをポーランドに連れて行くよ。おそらく、わたしは、もう二度とここには来ない」
 ライモンドの車いすの後ろに立っていたシャルロットは、ライモンドの肩に両手をかけ、ヴィトールドの墓に向かって言った。
「あなたは約束を守らなかった。プロポーズしてくれたとき、あなたは確かにこう言った。『ぼくはきみを守る。もう二度ときみを泣かせたりはしない。きみが助けを求めるとき、ぼくは必ずきみのそばにいる・・・』だけど、わたしがあなたの助けを必要としているのに、あなたはそばにいてくれない。泣いているわたしのそばにいるのは、あなたではない。あなたは、ほんとうにずるい人よね・・・。だから、もう二度とあなたには愛していると言わない。今のあなたには、その言葉はふさわしくないわ」
 かの女は白い墓に近づき、その前でひざまずいた。黙って何かを祈ったあと、かの女は立ち上がり、振り返った。
「・・・行きましょう」
 ライモンドはうなずいた。
 100メートルほど進んだところで、彼らは一人の男性がこちらに向かって歩いてくるのを見た。真っ白のバラだけの花束を持った赤毛の男性の表情は暗く、何か思い詰めているかのように見えた。彼は、二人に気づくと、疲れたような顔を少しだけ引き締め、無表情になった。
「・・・ド=ルージュヴィル家の墓を知りませんか? もしかすると、あなたがたはそこから来たのでは?」
 ライモンドは、自分の後ろを指さした。
「ありがとう」男はそう言った。
 シャルロットは目を見開いた。なんてこと、この人はアンブロワーズ=ダルベールだわ!
 はっと息をのむ音に気づき、ダルベールはシャルロットの方を見た。その表情には苦笑が混じっていた。
「・・・なんということだ・・・」彼はそうつぶやくと、二人に頭を下げ、指さされた方へと向かって歩いて行った。
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