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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第91章

第1662回

 それを聞くと、ライモンドは笑い出した。
「まったく、みんな同じことを言うんだから」ライモンドは言った。「この女性は、わたしの命の恩人なんだ。ヴィトールドの家が火事になり、彼の未亡人が火の海に取り残されたと知って、わたしは家の中に飛び込んでいった。しかし、わたしは家具の下敷きになって動けなくなってしまった。このまま死んでしまうと思ったとき、この女性が現れて、家具の下からわたしを引き出してくれた。この人がいなかったら、わたしは今ここにはいなかった。だから、わたしはこの人にプロポーズした。この話のどこが意外なんだ?」
「『この人がいなかったら、わたしは今ここにいなかった』と『だから』の間よ」ユーリアはすかさず口をはさんだ。「そこが肝心なんじゃないの。どうしてその結論が出るのか、ちゃんと説明してもらわなければわからないわ」
 その言葉を聞いて真っ赤になったライモンドとシャルロットをちらっと見て、ユーリアはほほえんだ。
「ライの命を助けてくれて、本当にありがとう。この人は、本当にいい人よ。大切にしてちょうだいね」ユーリアはシャルロットに言った。
「ええ」シャルロットはうなずいた。
「あなたのような優しい方と親戚になれるなんてうれしいわ」ユーリアは続けた。「・・・それで、この子たちが、ヴィテックの・・・?」
 ライモンドはうなずいた。「10歳になるまでは、わたしの手で育ててほしいというのがザレスキー夫妻の遺言だった。この子たちの父親がポーランドを飛び出したのは10歳の時だった。だから、10歳になったとき、彼らの意思を訊ねてほしいと言うことだった。このままポーランドにとどまるか、それとも彼らの父親と同じフランスの学校で学ぶのか、彼らに選ばせてほしいと。もし、フランスに行くのなら、ザレスカ夫人のいとこが保護者になるということだった」
「ぼくは、行かない」アレクサンドルが言った。「ずっとここにいる」
「ぼくも」ヴィクトールも断言した。
 ユーリアは双子の男の子たちを見つめ、笑った。「まったく、この子たちは、父親そっくりね。たしか、3歳だったわね。テレーニャと同じ年にしてはずっと大人なのね。ヴィテックもそうだったけど」
 その言葉を聞くと、ヴィクトールは背筋をぴんと伸ばし、大人びた表情を浮かべてユーリアを見た。
「やっぱり、ヴィテックが好きだったんだ・・・?」ヤロスワフが口をはさんだ。
 ユーリアは小さくため息をついた。「ヴィテックは、わたしが嫌いだったのよ。それに、わたしは、この子くらいの年の時には、もう彼と結婚したいとは思わなかった。周りの誰もがわたしたちを婚約させようと企んでも、わたしたちは動じなかった。今思うと、それでよかったのだと思うわ。わたしも彼も、理想の相手を見つけたんですもの」
 そして、ユーリアは意外な言葉を口にした。「・・・そして、テレーニャもおそらくこの子たちを選ばない。かの女はまだ幼いから、誰にでも『あなたのお嫁さんになる』と言いふらしているわ。だけど、そのうち本当に好きな人が現れたら、かの女は二度とその言葉を口にはしなくなるはず。当の本人も含め、誰にもね。わたしがそうだったし、ライモンドの姉妹たちもそうだった・・・」
 ヤロスワフは、フェリシアンの頭をなでながら言った。「そうか、あの子との蜜月もそうは長くないということか」
「あら、あなたは、もう別の候補者を見つけたようじゃないの、おじさま?」
 ヤロスワフはすかさず答えた。「こう見えても、わたしの指向はノーマルでね。女性にしか恋をしないんだよ」
 ユーリアはびっくりしたようにヤロスワフを見た。
「この子は、男の子だ」ライモンドがおかしそうに言った。「こんなにかわいいから、よく間違われるけどね」
 今度こそ、ユーリアは完全に絶句した。フェリシアンは、どこからどう見ても女の子に見えたからだ。
「さて、お母さまが迎えに来たから、帰る支度をしなくちゃね」ヤロスワフはマリア=テレージアに声をかけた。「<先生>にもちゃんと挨拶するんだよ」
 マリア=テレージアは母親の元に駆け寄った。ユーリアは子どもを抱き上げて優しくほおずりした。
「・・・しばらくの間は、うちに来てくださらない? この子の送り迎えをすることになると、あなたの家はピアノ教室ではなくて幼稚園になってしまいそうだから」
「一人くらい子どもが増えても、うちは大して影響はないぞ」ライモンドが言った。
「じゃ、最初の一度だけ、お願い」ユーリアが言った。「正式にあなたたちを招待することは、今のわたしたちには・・・わかるでしょう?」
 ライモンドはうなずいた。「わかった。正式な訪問にならないように、クリーシャだけを行かせるよ」
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