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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第91章

第1665回

「本当は、もうしばらく芝居を続けたかったが、どうやらそうもいかないようだ」ルドヴィークが言った。「これから話すことは、4人だけの秘密だ。だから、本当のことを話してほしい、ブローニャさん」
 驚いたようにシャルロットを見つめるユリアンスキーに、ルドヴィークは続けた。
「わたしたちなら、信用しても大丈夫だよ。いや、わたしたちはあなたの味方だ。何があってもね」
 そして、ルドヴィークはユリアンスキーの方に視線を移し、優しく言った。「もし、あなたが気づかなかったら、この芝居をもう少し続けるつもりだったんだがね、ユリアンスキーさん」
 その言葉を聞くと、ユリアンスキーは怪訝そうな顔を一瞬だけ浮かべた。
「・・・そうね、あなたなら一目でわかると思うべきだったわ、エドゥワルド」シャルロットがぽつりと言った。「あなたは、5歳だったわたしの勉強仲間だったわ。そして、5年間、ずっとわたしのそばにいてくれた。兄弟がいなかったわたしにとって、兄以上の存在だった。誰が気づかなくても、あなただけは気がつくと思うべきだった・・・」
 ユリアンスキーは緊張した表情でうなずいた。
「それでは、やはり・・・?」ユーリアはそう言いながら首をかしげた。シャルロットの沈黙を肯定だと取ると、かの女の顔がぱっと輝いた。
「ええ、わたしは、シャルロット=ザレスカです」シャルロットは静かな口調で話し出した。「幼い頃、この屋敷で育ち、10歳でフランスに行きました。それからヴィトールド=ザレスキーと出逢い、彼と結婚しました。彼と結婚した直後から、何者かがわたしの命を再び狙い始めたのです。火事のあと、わたしが死んだと思い込んだ放火犯は事情を打ち明けて自殺しましたが、最後まで主犯の名前を言いませんでした。それがわかるまで、との約束で、わたしは亡くなったクリスティアーナ=デュラスと入れ替わりました。かの女の背格好、年齢がわたしとほとんど同じだったからです。そして、そのわたしを守るため、ライモンド=コヴァルスキーはわたしと偽装結婚しようとしました。ですが、ほんとうは、わたしたちは結婚していません。わたしはパスポートを持った人間ですし、そのパスポートにある名前は、クリスティアーナ=デュラスです」
 それを聞くと、ユーリアはがっかりしたような表情になった。心の底から落胆しているその表情を見たとき、かの女の本当の名前を聞いたときのあの明るい表情を思い出したシャルロットは、胸が痛むのを感じた。ライモンドが初恋の人と結婚できてよかったと考えていたのは明らかだったのに。
「わたしにとって、ここは思い出深い家だったわ。ナターリア夫人が亡くなったあとも、昔からここにいる人たちは、ずっとこの家を守ってくれたのよね。でも、あれから10年以上たって、今のわたしを見ても、名乗らない限り誰も気づかないと思い込んでいたわ。門番のトマシチェックさんも、わたしには気づいていないようだったのに・・・」
「いいえ、気づいていたでしょうね。あれは、ただの音楽教師に対する態度ではありませんでしたよ」ユリアンスキーが言った。「かりに気づいていなかったとしても、何かを察したに違いありません」
「わたしは、まだここに戻って来たくなかった・・・まだ心の準備ができていなかったのに・・・」シャルロットはそう言うと涙ぐんだ。
「・・・泣いてはいけません」ユリアンスキーが優しく言った。「あなたは、もう、立派な大人なんですよ」
 シャルロットははっとしてユリアンスキーを見上げた。そして、瞬きを繰り返し、涙の跡を消した。
 その様子を、レーベンシュタイン夫妻は黙って見つめていた。ややあって、ルドヴィークは小さくため息をついた。
「今日のところは、お帰りください」ルドヴィークが言った。「気持ちの整理が出来るまで、テレーニャのレッスンはあなたの家で行うことにした方が良さそうです。あの子は、あそこが好きですし、ライもあの子が好きなようですしね」
 シャルロットは黙ってうなずいた。
 3人は、シャルロットを見送るために玄関まで出た。
 シャルロットが帰ったあと、ルドヴィークは、その場を去ろうとしていたユリアンスキーを呼び止めた。
「ついに、来るべきものが来たようだ」ルドヴィークが言った。「今すぐに荷物をまとめて、かの女の後を追うといい」
 ユリアンスキーははっとした。「わたくしが、何か、首になるようなことをいたしましたでしょうか?」
「あなたは、今すぐに首になりたいのだとばかり思っていたが?」ルドヴィークは首をひねった。「ドアを閉めたときのあなたの表情は、いますぐに追いかけたいといっているようにしか見えなかった」
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