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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第10章

第172回

 マリー=クレール=ド=フランスの自殺の後パリを離れていたクラリスは、ちょうど一年後、かの女の命日にパリに帰ってきた。
 かの女の墓参りを終えた後、クラリスは<地獄のオルフェ>にエドゥワール=ロジェを訪ねた。
 彼は、もう昔の彼ではなかった。穏やかだったその目は、どこを見ているか不明だったし、舌がもうまわりきらず、酒を浴びるように飲んでいた。
 クラリスは、驚いて彼のグラスを取り上げた。しかし、彼には、もうクラリスがわからないようだった・・・。彼は、かの女の手からグラスを奪い返した。そして、からになったびんを逆さにして、最後の一滴まで飲み干そうとしていた。クラリスは、その様子を見て悲しくなった。
「・・・彼は、もう、昔のエドじゃない」
 クラリスが振り返ると、そこにはエクトール=バローが立っていた。彼は、悲しそうな、疲れたような表情をしていた。そして、昔と同じように有無を言わせないような口調でこう言った。
「話がある、クラリス。おいで」
 彼はクラリスを外に連れ出した。
 バローは、とても背が高かった。クラリスとは頭一つ以上差があった。しかし、肩を落として立っている彼の様子は、以前より小さく見えた。
「・・・あの人があんなふうになったのは、94年の秋からだ」彼の様子は沈んでいた。「まあ、92年の秋には、すでに、狂ったように飲んでいたけどね・・・。でも、今は、ごらんの通り、本物のアルコール中毒患者だ。もう二回も入院させたんだが。でも、もうおしまいだ・・・」
「でも、どうして、あんなになってもお酒を飲ませるの?」
 彼は肩をすくめた。「ああなってしまっては、どうすることもできないんだよ」
「フランソワーズおばさまね、原因は?」
「・・・と、彼自身の弱さだね」
 クラリスはバローを見上げた。
 バローは、しばらくの間黙ってかの女を見つめていた。それから、思い切ったように切り出した。
「・・・あなたがパリにいなかったことは、ヘルムートから聞いている」
「ヘルムートから?」クラリスが言った。
「ああ。プランセスの自殺のことで、自分を追いつめている、って彼が言っていた」
「あなた、プランセスのことも知っているの?」
 バローは苦笑するような笑みを見せた。「ぼくたちは、もともとロランのクラスで一緒だった。知っていると思っていたんだけど」
 クラリスも苦笑いした。「ごめんなさい、そうだったわね。わたし、あなたがロランの弟子だったことを、つい忘れてしまうのよ」
「不肖の弟子だったからね」バローはもう一度苦笑した。
 クラリスは、これまで、バローとシャインはお互いに嫌っていると思っていた。同じアンリ=ロランの弟子だというだけでほとんど共通点がない彼らが、実は友人同士だった、というのは、クラリスには意外なことだった。
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