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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第95章

第1743回

 そう言うと、ルドヴィークはため息をついた。「・・・なるほどね。おかしいとは思っていたんだ・・・」
「何が?」ユーリアは訊ねた。
「今回のことすべてだ」ルドヴィークが言った。「世界的な大作曲家の新作のコンサートが注目されるのは当然だろう。だが、そう言われてみれば、確かに宣伝も過剰だったし、マスコミも評論家たちも、おおむね好意的にコンサートを受け止めていた。明日になれば、ヨーロッパ中の新聞がこのコンサートを取り上げるだろう。彼は有名になり、コンサートの依頼が殺到することになる。作られた一人のヒーローが、階段の頂点に立つというわけだ」
 ルドヴィークはもう一度ため息をついた。「・・・気づかなかった。こんなうまい話があるはずがないと思うべきだったのに」
「あなたのせいじゃないわ、ルーディ。わたしだって気がつかなかったんだもの」ユーリアが優しく言った。
 ライモンドは小さく首を振った。「彼も気づいていないのか?」
「たぶん」ユーリアが言った。
「では、彼は、クリーシャがなぜベルリンへ行ったと思っているんだろう?」ライモンドは訊ねてみた。
「フリーデマン氏の話を真に受けたから、じゃないかしら」ユーリアが答えた。「フリーデマン氏とタデックが初めて会ったとき、タデックとクリーシャはコンスタンティの曲を演奏していたわ。その二人に、フリーデマン氏は二人とも欲しいと言ったの。自分には二つの新曲がある。それぞれを、二人に演奏してもらいたいと。もともと、タデックはフリーデマン氏の曲を演奏するつもりでいたわ。フリーデマン氏が、ベルリン=フィルの演奏会でヴァイオリン=コンチェルトを初演したいと言い出したとき、あの場で一番乗り気だったのは、カフェのマスターだった。彼は、ベルリンでヴァイオリンの修行をした人物だった。幼い頃からヴァイオリンの才能を認められ、高価な楽器と奨学金を得てベルリンに行ったものの、彼と愛器アマーティはベルリンのステージに立つことはなかった・・・彼は、自分の夢をクリーシャに託し、大事にしていたアマーティを貸したのよ」
 そして、そっと付け加えた。「カフェのみんなが知っているのは、そういう話よ。そのあと、内輪で壮行会をして、クリーシャはベルリンに行ったの。クリーシャとあなたたちの間で密約が交わされていたということを、誰も知らないはずだわ。あのあと、クリーシャとフリーデマン氏はベルリンへ行き、マネージャーのシュミットさんは、タデックのコンサートのプロモーション活動に入った・・・。タデックは、自分の演奏会の準備に夢中だったから、細かいことを考えている暇はなかったんじゃないかしらね」
「余計なことを耳に入れないよう気を配ったつもりだし」ルドヴィークも言った。「運命の女神はきまぐれだから、かの女がこっちを向いているうちに、幸運を手に入れようと思っていた。幸運すぎて怖かったけどね。だけど、まさか、背後で運命の女神を操る人間たちがいたとはね・・・」
 そう言うと、ルドヴィークは顔をくもらせた。
「フリーデマン氏は、最初《タデック》が誰なのか気づいていなかった。だが、今では気づいている、と思って間違いないだろう。今後も、彼は表だって活動することはできず、これまで通り黒幕のまま、ということになる。彼は、次にどのカードを切るんだろう?」
「カード?」
「フリーデマン氏には、いくつか切り札がある。だが、一つは封じられた」ルドヴィークが言った。「そのカードとは、タデックにこれまでのいきさつを告げてダメージを与えることだ。彼の成功の陰に、クリーシャとの密約があったとつげ、彼の自尊心をずたずたにすること。だが、そのカードを切るとは思えない。なぜならば、それをしてしまったら、永久にクリーシャの心を得ることができなくなるからだ」
「でも、フリーデマン氏は、すでにかの女の信頼を裏切っているわ」ユーリアが言った。
「だから、さ」ルドヴィークが言った。「もし、彼がそのカードを切るときは、彼がやったと誰にも気づかれないようにするだろう。だが、それは不可能だ。なぜならば、その密約のことを知る人間は当事者以外に存在しないからだ。よって、彼はこのカードを封印するしかない」
「じゃ、どのカードを切ると思う?」ライモンドが訊ねた。
「あらゆる手を使って、彼を干す」ルドヴィークが言った。「今回と逆の作戦だ」
「フリーデマン氏が、そんな露骨な手を使うかしら?」ユーリアが言った。
「どちらにしても、今後あの二人が平和的に共存できるとは思えない。なぜならば、同じ女性を愛している男性たちに、仲良く共存する道はないからだ。どちらかが勝負から降りない限り、二人は敵対するしかない」
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