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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第95章

第1749回

 シャルロットは泣くのをやめて、ユーリアの顔をまじまじと見た。
「女性は、男性の腕の中で・・・すてきな思いをすることは、普通のことなの?」
 ユーリアは夢から覚めたような表情でシャルロットを見つめた。
「あなたはそうじゃないの?」
「彼は---ヴィトールドは、わたしが《不感症》だと言っていたわ」シャルロットは小さな声で言った。「だから、彼は、いつも短い時間で事を終わらせようとしてくれたの・・・」
 ユーリアはあきれたように天に目を上げた。
「まあ・・・。わたし、ヴィテックと結婚しなくて本当によかったと神に感謝すべきかもね」ユーリアはまくしたてた。「自分のふがいなさを棚に上げて、あなたをおとしめるなんて最低の男」
 シャルロットは慌てて言った。「彼は、最低の男じゃないわ」
 ユーリアは、ふん、というような声を出した。「だけど、あなたは、フリーデマン氏とはうまくできたんでしょう? ならば、あなたは決して不感症ではなかったということよ。悪いのはあなたではなく、ヴィテックの方よ」
 シャルロットは真っ赤になった。「・・・そんなことを、大きな声で言わないでくださる?」
 ユーリアはくすくす笑ってから謝った。「ごめんなさいね、つい、興奮してしまって・・・」
 それから、ユーリアは小さな声で言った。
「結婚に幻滅を感じるのは早いと思うわ。男性は皆ヴィテックみたいな人ばかりではないわ」ユーリアは考え込んだ。「それで、あなたは、ライの気持ちに応えるのをためらったのね。ライもまた、ヴィテックみたいに自分に苦痛を与えるような人間に違いない、と思ったんでしょう? そうね、それだけはふたを開けてみなければわからないわ。試してみるわけにも行かないし・・・」
 そう言うと、ユーリアは言った。「そうだわ、ためしに、キスをしてみなさいな。もし、あなたを満足させてくれる男性なら、きっとキスも上手だと思うわ」
 シャルロットは沈んだ表情で言った。「フリーツェックのキスは、とてもすばらしかったわ。でも、彼と結婚したいと思わなかった・・・たとえ、毎日あんなキスができたとしても・・・」
 ユーリアはほほえんだ。「それでは、ライやタデックとキスをしたあと、どんな風に思うのか、試してみるといいわ。もし、運命の相手だったら、これまで感じたことがないような幸せな気分になるはずよ」
 その言葉を聞いたシャルロットが最初に考えたのは、フリーデマン氏のことだった。恥ずかしかったし、混乱していたし、何よりも自分に幻滅していたので---自分の気持ちを整理するだけで精一杯だったので---言われるまで気づかなかったが、彼の方は幸福な様子を隠そうとはしなかった。かの女に触れているだけで、この世の最高のご褒美をもらったかのように喜んでいた彼の様子を思い出し、シャルロットは眉をよせた。彼は、どんな女性が相手でも楽しめる人間だとばかり思っていたが、もしかすると、そうではなかった・・・?
「彼は---フリーデマン氏は、本当に一人の女性に執着するようなことはなかったの?」シャルロットは訊ねてみた。
「そうね、噂が正しければね」ユーリアは言った。「彼は、同じ人間に三度は相手しないというのは有名な話だから。一度目は自分が誘惑し、女性の方がおねだりしない限り二度目はない。そして、いくら懇願されても、三回目には応じないというのがもっぱらの噂よ。でも、どうして同じことをまた聞くの? まさか、自分は彼にとって特別な女性だと思いたいから、じゃないでしょうね?」
 シャルロットは下を向いた。
「彼のような男性は、どんな女性にもそう思わせるように仕向けるのよ。だから、たいていの女性は、自分が彼にとって特別な女性に違いないと思い込んで《二度目》に及ぶんだわ。だけど、ああいうタイプの男性は、女性の方が積極的になれば必ず逃げていくのよ。《三度目はない》というのは、そういう意味よ」ユーリアはため息をついた。「あなたが彼にとって特別かどうかは、その《二度目》の要求を出してみればわかるわ。でも、まさかあなたがそんなことをするとは思えない」
 ユーリアはシャルロットの顔をのぞき込んだ。
「・・・今のあなたなら、やりそうな顔ね」ユーリアはほほえんだ。「やってみるのも一つの手ではあるわね。でも、傷つくのはあなたなのよ。へたをすると、彼の子どもを身ごもった状態で捨てられるということもありうるわ。そのリスクを抱えて、冒険に及ぶつもりはないわよね? 彼はそんなにすてきだったの?」
「・・・ええ」シャルロットはつぶやくように言った。
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