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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第95章

第1750回

 その返事を聞くと、ユーリアは考え込むような表情に戻った。フリーデマン氏は本気になっているのかもしれないという可能性を考え始めたからだ。本気かどうかを確かめるには、シャルロットに彼を追いかけさせてみるのが一番いい。もし彼が本気なら、二人は幸せなカップルになるだろう。しかし、そうではない確率の方が高い。彼と噂になった女性は何十人もいたし、噂にならなかった女性を含めるとひょっとすると百人単位---まさか、千人単位?---で、彼は女性とつきあってきた。日替わり、とはいわないまでも、極端な場合は毎週違う女性をエスコートしていた・・・といわれるくらい、彼の女性関係は激しい。その背景には、かなわなかった初恋があるといわれるが、その初恋の人でさえ、実際に捕まえてみたら、想像とは違っていた・・・という理由で捨てることだって、彼のような人間にならあり得ることだ。
 どうしたらいいだろう? この問題は、自分の手に余る。誰か、信頼できる人に相談してみたい。だが、こんなことを相談できるような人などいるだろうか? 自分とかの女の共通の知人で、秘密を守ってくれそうな人・・・。
 そうだ、一人いる!
「この問題は、わたしの手には負えないわ。自慢になるかどうかわからないけど、わたしは、これまでたった一人の男性しか知らないから、男性がどんなものなのかを経験で語ることは難しいわ。もちろん、わたしの知り合いで、たくさんの恋愛を経験してきた女性は一人もいないわ。でも、この相談事に別な角度から答えを見つけてくれそうな人が一人だけいるの。かの女に相談してみたいと思うんだけど、どうかしら?」
 シャルロットは、ユーリアが言おうとしている人間が女性である、ということを知ると、少しだけ安心したような表情になったが、その表情はまたこわばった。
「その女性なら、あなたの秘密を守ってくれそうだと思うの。どう、話をしてみない?」
 シャルロットは沈黙を続けた。
「その女性とは、エヴァ=リーベルマン---モジェレフスカ夫人よ」
 その名前を聞くと、シャルロットの表情はさらにこわばった。
「かの女の人柄は、あなたもよく知っていると思うわ。あなたとヴィテックの共通の友人だから、あなたの過去のことも当然よく知る人間だわ。あなたが秘密を守りたがっていることも理解してくれるはず。小説家だから、人間の機敏もよくわかると思うの。何よりも、かの女は誠実な人だわ。どう、かの女を共犯者にするのは?」
 シャルロットは小さな声で言った。「リーベルマン夫人がわたしに好意的になる理由はないわ」
 ユーリアは首をかしげた。「あなたたちは、仲がいいんじゃなかったの?」
「コヴァルスカ夫人とは、そうかもしれないわね。だけど・・・」そう言って口をつぐんだシャルロットに、ユーリアは言った。
「ローザンヌでは、あなたたちは友達ではなかった・・・? 本当なの?」
 目を丸くしているユーリアに、シャルロットは頷いて見せた。
「まさか。信じられない・・・」ユーリアは驚きの表情を隠さなかった。カフェでのリーベルマン夫人とシャルロットのやりとりを見る限り、二人の間には友情めいたものがあるに違いないと思っていたのである。リーベルマン夫妻は、自分の作品を発表するのと同時に、かつての仲間たちがフランス語で書いた小説をポーランド語に翻訳して紹介する、という仕事をしていた。シャルロットは、彼らの”事業”の協力者として、リーベルマン夫妻の翻訳作業に手を貸したり---ポーランド語を母語としてフランス語を学んだ彼らに対し、フランス語を母語としてポーランド語を話すようになったシャルロットは、彼らよりはフランス語が得意だった---ときには、彼ら自身の小説に対して適切な助言を与えることもあり、彼らの仲は良好だと思っていた。だが、そう言われてみれば、リーベルマン夫人がヴィトールドのことを話すときの口調に気になる点がなくもなかった。だが、ユーリアはそれを”違和感”とまでは思わなかったのだ。
「話して。あなたと---シャルロット=ザレスカとリーベルマン夫人の間に、一体何があったの?」
 シャルロットは目を閉じた。少し考えたあと、かの女は目を開けた。
「あなたには、正直に話すと約束したのよね」シャルロットは小さくため息をついた。「・・・リーベルマン夫人の経歴について、どのくらい知っているの?」
「それほどは」ユーリアが答えた。「そもそも、わたしは文学者サークルの人たちとはさほどつきあいがなかったし・・・文学自体に興味があるわけではないし。彼らがローザンヌから来たということを知っているくらいよ。そのほかには、彼らが作家としてのヴィテックを知っている、というくらいかしら」
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