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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第95章

第1752回

 シャルロットが目を覚ましたとき、枕元にいたのはモジェレフスキー夫妻だった。
「・・・よかった、目が覚めたみたい」女性の声に、シャルロットは頭を動かした。
「エヴァ・・・?」シャルロットはかすれた声で言った。
 その声を聞いたモジェレフスカ夫人の目に涙がたまった。かの女は、シャルロットのベッドのそばにひざまずいた。
 シャルロットは慌てて起き上がろうとした。
「そのままでいいよ」モジェレフスキーが声をかけた。「きみは病人だ」
 モジェレフスカ夫人は涙声で言った。「ユーリに話を聞いたわ。お願い、今度はわたしたちに恩返しをさせてちょうだい」
「恩返し・・・?」シャルロットは目を丸くした。
「あなただったんですってね・・・」モジェレフスカ夫人はシャルロットの手を取り、声を上げて泣き出した。
 言葉を継ぐことができない妻に変わって、モジェレフスキーは言った。
「ユーリから話を聞くまで、わたしたちは全く気づかなかった・・・フェリックス=ザモイスキーの妹弟のために、奨学金を出した人間の正体を。マウゴーシャと弟は、スイスの全寮制の学校に進学し、大学にまで行かせてもらった。謎のパトロンは、自分の正体を知ろうとしないことだけを条件に、二人を進学させた。そのパトロンは、自分たちで作り出した虚構の人物<プリンス=ザモイスキー>の遺児として、二人を上流階級の子女しか通えない寄宿学校へ入れた・・・」
「その件には、わたしは無関係よ」シャルロットは小さな声で言った。「そもそも、パトロンは男性だったはず」
「そう、その男性の正体は、ヴィトールドのおじいさまだったそうね。ユーリの話では、彼は信じられないくらいの堅物だったのだとか。ユーリも、子どもの頃は、彼が笑うなんて考えたこともなかったのだと言っていたわ。彼は筆まめな人だったから、しょっちゅういろいろな人に手紙を書いていたそうよ。ある日、ユーリが訪ねていくと、彼は楽しそうに手紙を書いていたんですって。その手紙の相手は<プリンセス=ザモイスカ>だったそうよ」モジェレフスカ夫人は涙ぐんでいた。「ユーリは、彼が笑うのを初めて見たのだと言ったわ。それで、かの女は訊ねてみたんですって。『おじさまも、ついに再婚なさる決心をしたんですか? プリンセス=ザモイスカとは、どんな姫君なのですか?』と。その質問を聞いたザレスキー氏は、かの女がそれまで見たことがないようなうれしそうな笑みを浮かべてこう言ったんですって。『これは、あの子が思いついたゲームでね、そのゲームの中で、わたしはポーランド人の執事役なんだ。わたしの役割は、スイスにいるプリンセスの留守中に起きた出来事を、ひと月に一度手紙で報告することだ。ところが、はじめてみたら、これが楽しくってね。これを読んでいるプリンセスがどんな顔をするのかと思うと・・・』そう言ってほほえんだ彼の姿を見たとき、ユーリは、その人に笑いを思い出させた人間に思いをはせたんですって」
 そう言うと、モジェレフスカ夫人は泣きながらほほえみを浮かべた。「本当におもしろい手紙だったわ。寮で同室だったアラブのお姫様も、フランス語で書かれたその手紙を心待ちにしていたくらいよ。『あなたの執事って、本当におもしろい人なのね。一度会ってみたい。可能なら、ぜひ、うちの執事として引き抜きたいわ。・・・ああ、どんなにおうちが懐かしいことでしょうね!』と口癖のように言っていた。ユーリに聞くまで、その人物が堅物で有名な人だったなんて、想像もできなかった・・・」
 そして、モジェレフスカ夫人はシャルロットに言った。「・・・ヴィトールドも言ったことがある。自分の祖父は、頑固で堅物な人間だったと。でも、わたしが知っている彼は、優しくて思いやりのある・・・そして、ユーモア精神がたくさんある人間だった。ヴィトールドは、間違いなく彼の血を受け継いでいる。もし、彼が年を取ったら、ああいう老人になったことでしょうね・・・」
 シャルロットも涙ぐみそうになった。
「ユーリは、《婚約者》のおじいさま、として彼の所を訪問していた。かの女にとって、初めのうちはそれが義務だった。ところが、彼のいろいろな面を見るうちに、彼が好きになっていったんですって。でも、あなたの告白を聞くまでは、<プリンセス=ザモイスカ>の正体に気づかなかったし、その芝居がどういう背景で行われていたか全く気づかなかったそうよ」
「あれは、彼が独断でしたことだわ」シャルロットは言った。「わたしは、ユーリには何も言っていない。わたしが話したのは、あなたのお兄様とわたしの間に起こったことだけよ。かの女は、勝手に想像しただけで・・・」
 モジェレフスカ夫人はその言葉を遮った。「ユーリでなくても、それだけのパズルのピースが集まれば、想像がつくことだわ。わたしは、あなたたちのおかげで大学まで行けたのよ。感謝しているわ」
「・・・でも、大学へ入ったのは、あなたの努力のたまものでしょう?」シャルロットは小さな声で言った。
 モジェレフスキーはにやりとした。シャルロットは、無意識のうちに、自分のしたことを認めたからだ。
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