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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第95章

第1753回

「そうか、やっと認めてくれたんだね」モジェレフスキーが言うと、シャルロットは真っ赤になった。
 そして、慌てて否定しようとしたシャルロットに、まじめな表情で訊ねた。
「なぜだ? きみにとって、かの女の兄は自分の家族を殺した人間のはずだ。きみは、彼を憎むことも、彼の家族を憎むこともできたはずだ。だが、きみは彼を憎んではいないといった。それどころか、彼を殺してしまったと自分を責めた。きみがかの女にしたことは、犯してもいない罪の罪滅ぼしだったというのか?」
 シャルロットは目を閉じた。
「自分には罪がある、という話なら聞きたくないぞ」モジェレフスキーはたたみかけた。
 シャルロットは大きく息を吸ってから、かすれた声で話し出した。
「人間は、毎日のようにたくさんの選択肢の中から何かを選びながら生きているわ。選択肢そのものが限られていることもあるし、多すぎることもある。でも、何かを選びながら生きなければならない。選択肢からどれかを選ぶことは、その人の人生そのものだわ。同じ問題に対して誰がどんな答えを出すかにまで干渉することはできないけど、よりよい答えを出すためには、できるだけたくさんの知識があった方がいいと思ったの」シャルロットは話し出した。「これは一例に過ぎないけど、地球には、ありあまるほどのお金と地位と名誉を持ったひとがいる。他方では、その日の食べ物に困る人も大勢いる。どうしたらみんなが幸せになれるか・・・。フェリックス=ザモイスキー少年は、その問いを突きつけられたとき、《貧しい人が大勢いるのは、政治が悪いからだ。悪い政治家を排除すれば、自分たちは幸せになれるはずだ》と単純な答えを出した。《自分の正義を貫くためには、何をしてもいいのだ》と思い込んだ。でも、政治はそんな単純なものじゃないわ。もしそうなら、地球には貧しい人など誰もいないはず。みんなが幸せに暮らしているはず。これまで人類が何万年もかかってできなかったことが、そんな単純なことで解決できるなんてありえない・・・」
 シャルロットの目に涙が浮かんだ。「わたしは無力だわ。たくさんの人たちを助けることはできない。だから、せめてフェリックスの妹弟だけでも助けたい。彼らが、異国の地でたくさんのことを学べば、フェリックスのようにはならないかもしれない。もちろん、いろいろな知識を持ったあとでも、やはりフェリックスと同じ結論を出すかもしれない。だけど、それは、フェリックスのように狭い人生体験から導き出された結論とは違うわ。わたしは、彼らには知識がつまったポケットをたくさん持って欲しかっただけ。同じ問題にぶつかったときに、どれだけたくさん選択肢を持てるかで、人生は大きく変わるわ。わたしは、彼らに変わってもらいたかったの・・・。その結果が、たくさんの憎しみであったとしても、わたしはかまわない。わたしの伯母は、自分を殺そうとした人間に許すと言い残して亡くなったわ。自分も、憎しみに対して愛を返せる人間になりたい。本当に悪い人間なんて、この世に一人もいない・・・わたしにそれを教えてくれたのが、ほかならぬフェリックスだったのよ」
 シャルロットの目から涙がこぼれ落ちた。「・・・アファナーシイおじいさまは、本当はとても優しい人だった。その優しさをどうやって使うかを知らなかっただけ・・・。彼にとって、プリンス=ザモイスキーは出て行ってしまった孫の代わり、そして、プリンセス=ザモイスカは、亡くなった娘の代わりだったに違いないわ・・・。彼は、本当は愛していた二人に、心からの愛情を注ぎたかったのよ。でも、彼は、本当に不器用な人だった・・・」
「孫のギュスターヴ同様に、ね」モジェレフスカ夫人がつぶやいた。
 シャルロットは頷いた。
「・・・ヴィトールドは、おじいさまがしていたことを、全然知らないで亡くなったのよ。不思議ね。それでも、ヴィトールドもおじいさまと同じことをしたのよ。ただ、おじいさまのように隠れて、ではなかったけど」
 モジェレフスカ夫人は、泣きながら頷いた。
「たぶん、ヴィトールドにとっての《ギュスターヴ=フェランの懐中時計》は、そして、パエッタ通り小学校は、そういう意味だったと思うの。わたしは、あなたたちに---特に、ベルク博士に---どうしてもそれを理解してもらいたかったのよ」
「今ならわかるわ」モジェレフスカ夫人はシャルロットの手を取った。
「かの女は、約束通り、その人物の正体を探ろうとはしなかった。だからこそ、今まで、恩人がすぐそばにいることに気づかなかったんだ」モジェレフスキーが言った。「だが、わかったからには、わたしたちにも何かさせて欲しい。ユーリの話だと、当分の間姿を隠したいのだとか」
 シャルロットははっとした。
「我が家へ招待しますよ。いつまででも好きなだけ隠れ家を提供しましょう。そのくらいしか、わたしたちにはできませんが・・・」
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