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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第10章

第183回

 エマニュエルは、後に<回想録>の中で『あの日、ベッドの中で見た夕焼けは、とても美しかった。こんなに美しい夕焼けを見たのは、これが初めてであった。それは、もうすぐ春が訪れるという約束の印に思われた・・・』と振り返っている。
 エマニュエルは、クラリスを抱いたまま、窓の外に広がる夕焼け空を見つめていた。
 ほかの季節に比べて、冬の夕暮れには風情がない。彼はそう思っていた。冬は、寒く厳しく暗い。だからこそ、みな春を待ちわびているのだ。しかし、どんなに厳しい冬でも、かならず春はやってくるものだ。
 放心状態のまま横たわっていたクラリスが身動きした。
「愛しているよ、クラリス」エマニュエルが優しく声をかけた。
 クラリスはゆっくりと目を開けた。エマニュエルは、かの女を優しく見つめていた。かの女の目がエマニュエルの目と合った。かの女は恥ずかしそうに目をそらした。
「・・・後悔しているの・・・?」エマニュエルが訊ねた。
 クラリスは、エマニュエルをもう一度見た。その目に涙がたまってきた。かの女は、ささやくような小さな声で言った。
「・・・いいえ。後悔していないわ・・・」
 クラリスは、エマニュエルが心配そうな表情で自分を見ているのに気づき、ほほえんだ。
「・・・泣いたりしてごめんなさい・・・でも、どうして涙が出てくるかわからない・・・わたし、知らなかった・・・これが愛というものだったのね・・・。・・・ええ、後悔なんかしていないわ、エマニュエル」
「じゃ、もう泣かないで、クラリス・・・」エマニュエルはかの女の頭を優しくなでながら言った。
 クラリスは、ゆっくりと目を閉じた。幸せそうな、安心しきったような表情であった。
「・・・でも、わたしは、後悔している」エマニュエルは出し抜けにそう言った。
 クラリスの体が緊張したのを感じ、彼はほほえんだ。「許して欲しい、クラリス。わたしは、もう少し待つべきだった・・・結婚式まで待てなくてごめん・・・」
 クラリスは、体中から力が抜けた感じがした。かの女は目を閉じたままほほえんだ。
「一日でも早く、結婚式を挙げよう、クラリス・・・」エマニュエルが言った。
 返事はなかった。かの女は、疲れ切って眠ってしまっていた。
 エマニュエルは幸せだった。
 彼は、かの女がまだ別の男のことを忘れられないことを知っていた。それでも、かの女は、この自分を選んだのだ。そして、こうやって、自分を頼り切っている・・・。いつの日か、かの女は自分だけを見てくれる日が来る。あの夕焼けが、そう教えてくれたのだ。
 彼はもう暗くなりつつある空を見た。夜が来る。でも、その後には、きっと明るい未来が待っているはずだ。
 このひとを幸せにしたい・・・彼はそう思った。
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