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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第96章

第1774回

「・・・どういう意味?」ユーリアは怪訝そうに訊ねた。
「わたしたちが新しい<クリモヴィッチ家>を作るのに、あなたは反対だとばかり思っていたわ」シャルロットが言った。「以前、ブラッソンさんが話してくれたわ。小さかった頃、彼はあなたが大嫌いだった、って。あなたは、弟たちに優しくなかった、って」
 ユーリアは眉を寄せた。
「だけど、成長して、彼にもわかったの。あなたが彼らに優しくなかった本当の理由が」シャルロットは続けた。「クリモヴィッチ夫妻は、すべての子どもたちに優しかった。ただ一人をのぞいて。それが実の娘のあなただった。夫妻は、あなたに犠牲を強いて、すべての子どもたちを守ってきたのね。あなたは本当の娘だったのに、両親から十分な愛情を注がれていないと感じていた。だから、男の子たちに厳しく接したんだわ。『あなたには、本当の両親がいる。だけど、あの子たちにはいないわ。だから、わたしたちがあの子たちをかわいがっても、あなたは我慢してね』・・・そうやって、夫妻は身寄りのない子どもたちを育ててきたのね。成長する過程でそれを知った彼らは、あなたを尊敬し、実の姉のように慕った」
 ユーリアは新たな涙をこぼした。
「クリモヴィッチ家は、タデックにとっては理想の家族だったかもしれない。だけど、彼の理想の家族は、わたしの子どもたちにとってはどうなのかしら。もしかすると、わたしとタデックの間に生まれる子どもが、かつてのあなたの立場に立つかもしれない。誰かに犠牲を強いる家族は、いい家族だとは思えないわ。まして、当時、あなたはほんの子どもに過ぎなかったのに、みんなはあなたに犠牲を強いたのよ。あなたが、彼らの本当の子どもだったというだけの理由で」
「違うわ」ユーリアは言った。
「違わないわ」シャルロットは言い返した。
「違うのよ。それは、犠牲ではないわ。仮に犠牲だとしても、わたしは、その犠牲のおかげで、ルーディと結婚できたのよ。もし、もう一度自分の人生をやり直せるとしても、やはりクリモヴィッチ家に生まれたいと思うわ。そして、もう一度ルーディと出会いたい・・・」
 それを聞くと、シャルロットはわっと泣き出した。
「・・・あなたにとって、ヴィテックやライはそういう人間ではなかったのね」ユーリアは優しく言った。「もしかすると、タデックやフリーデマンさんも」
 ユーリアにもはっきりわかった。シャルロットが愛しているのは、幼い頃に決められた婚約者ただ一人だということが。皮肉な行き違いのため結婚することができなかったが、かの女はその人物に、自分にとってのルドヴィークと同じような感情を抱き続けていることが・・・。もしかして、今のシャルロットはそれを自覚していないのかもしれない。だが、心のどこかでそれを望んでいるからこそ、かの女は求婚者二人をこの場から追い払ったのだ。たぶん、このままだったら、3年経っても、シャルロットは二人のうちどちらかを選ぶ決心はついていないだろう。おそらく、10年経過しても同じことだ。
 ユーリアは思った。いつか、弦楽四重奏団と一緒にフランスに行こう。そして、シャルロットには内緒で<元の>婚約者に会ってこよう。その人物がシャルロットにはふさわしいとは思えない、とライモンドは言ったが、自分の目でも確かめてみたい。その結果を見てから、帰ってきたタデウシの背中を押すかどうか考えてもいい。ユーリアにとってタデウシはかわいい弟だが、シャルロットだって大切な妹だ。二人には幸せになってもらいたい。その人生が交わるかどうかはわからないが、たとえ別々の人生を歩むことになっても、二人は自分にとって大切な人間であることには変わりはない。
「・・・さあ、眠りなさい」ユーリアが優しく言った。「今のうちに休んでおかないと、明日から忙しくなるわよ。片付けなければならない難問がたくさんあるのよ」
 シャルロットは小さく頷き、ユーリアの手から腕を引き抜いた。
 ユーリアは子守歌を歌うような調子で言った。
「目を閉じて、わたしの大好きな妹・・・。何があっても、わたしはあなたの味方よ」
 シャルロットは目を閉じた。ユーリアは、ちいさな子どもを寝かしつけるように、シャルロットの頭を優しくなでた。
 ユーリアは、シャルロットが眠るまでそうしていた。
 長い一日が終わろうとしていた。
《明日は、もっと大変なことがありそうね》ユーリアはそっと独り言をつぶやいた。そして、かの女も目を閉じた。前の日もほとんど眠っていなかったユーリアも、簡単に眠りに落ちた。
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