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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第97章

第1776回

 それからまもなくして、ヤロスワフは遺言状を書き換えた。そして、彼は、病気療養に専念するため、という理由でワルシャワ郊外の屋敷に移った。それを機会に、シャルロットもポーランドに来て以来ずっと暮らしていた家を出て、その屋敷に一家を連れて移ることにした。短い時間になるかもしれなかったが、ヤロスワフのそばにいたかったからだ。
 それは、もともとチャルトルィスキー家が持っていた家の一つだった。古くからチャルトルィスキー家にいる使用人たちの話だと、前の公爵(アントーニ=チャルトルィスキー)が週末に使っていた屋敷だという。彼は週に一度そこにこもり、好きな本を読んだり散策をしたりしていた。後に彼の妻となったナターリアにプロポーズしたのもその屋敷でのことだったらしい。公爵夫妻は、結婚後もその習慣に従っていて、シャルロットも子ども時代、何度かその屋敷で過ごしたことを覚えている。
(公爵夫妻は毎週末その屋敷に来たが、シャルロットの方はクラコヴィアクの練習などが週末に組まれることが多く、そう頻繁にここを訪れることはなかった。)
 ヤロスワフはいとこのアファナーシイ=ザレスキーの死後その屋敷を管理するようになった。彼は、郊外のこの家を気に入り、頻繁に訪れるようになり、やがてかつての主と同じ習慣を身につけてしまった。そして、週末をくつろいで過ごせるよう、自分好みに家の中の模様替えをしてしまった。そのため、屋敷は、シャルロットの記憶とかなり変わってしまっていたが、チャルトルィスキー夫妻が好きだった庭はそのままで、早咲きのバラの花が咲き始めようとしていた。
 シャルロットと子どもたち---今では、ライモンドの甥のクリスティアン、シャルロットの双子の息子だけになってしまった---は、何人かの使用人たちと一緒に移り住んだ。元の家は、執事のエドゥワルド=ユリアンスキーほか数名が管理するだけになった。ユリアンスキーも、一日おきにシャルロットのところに顔を出し、決裁事項や相談などを持ち込むので、シャルロットにとっては、依然とそう変わりのない生活になっていた。大きく違うのは、かの女自身がワルシャワの町中に出かけることがまれになってしまった点だけだった。そのため、レーベンシュタイン夫妻やモジェレフスキー夫妻は、頻繁に屋敷に出入りした。レーベンシュタイン夫妻の娘マリア=テレージアがシャルロットからピアノを習うため週末ごとに訪れ、一緒に週末を過ごすようになったので、週末になると屋敷は急に賑やかになった。もちろん、ユーリアがヤロスワフの話し相手になったことは言うまでもない。ヤロスワフは、この家に移って以来、家の中が急に賑やかになったことに気をよくし、孫のクリスティアンだけではなく、マリア=テレージアの婚約も遺言に盛り込もうか、と提案したが、レーベンシュタイン夫妻双方に反対され、その件はうやむやになったようだった。
 マリア=テレージアは9歳になっていた。自分が9歳の頃にはすでに将来の配偶者を心に決めていたユーリアから見ると、かの女の娘はまだまだ子どもっぽかった。どう見ても、マリア=テレージアには特定の恋人はいないようだった。レーベンシュタイン夫妻は、ヤロスワフから、『ユーリはコヴァルスキー一族の掟を破ったのだから、娘にはザレスキー一族の夫を持たせなくては』と言われていたし、彼らの娘のそばには年の近いザレスキー一族の男性が二人もいた。シャルロットが自分の息子のアレクサンドルとマリア=テレージアが一緒にいることが多いのを見て、将来は二人を結婚させたい・・・と思っているのを知っているにもかかわらず、レーベンシュタイン夫妻の反応は今ひとつだった。ユーリアは、娘の結婚にあたっては娘の好きなようにさせたいと思っていたし、自分がそうであったように娘も好きな男性を選ぶと確信していた。ザレスキー一族のフィアンセがいた女性と結婚してしまったルドヴィークは、自分の結婚をヴィトールドに対する負い目だと思っていた。だから、掟はともかくとしても、自分の娘をシャルロットの息子の誰かと結婚させてもかまわないと思ったが、できれば、その相手は、ザレスキー一族の当主である少年の方であって欲しいと思っていた。シャルロットの長男には一度も会ったことはないが、シャルロットの話だと心優しい子どもであったという。双子のように賢くなくてもいい。娘を大切に思ってくれる男性でさえいれば。
 マリア=テレージアは全く本気になっていなかったが、アレクサンドルの方は本気だった。彼は、本当は勉強している方が好きだったにもかかわらず、マリア=テレージアと一緒にいる時間を増やすため、仕方なしにピアノの前に座った。それだけの犠牲を払っても、マリア=テレージアは彼だけを見てくれることはなかった。彼にとっては不満だったが、ヤロスワフはそんな彼に、誠意を見せればいずれは彼の方を見てくれるはずだ、とたきつけた。そんなアレクサンドルを見ていると、不器用だったいとこのアファナーシイを思いだし、ヤロスワフはアファナーシイの孫のために何とかしてあげたいと思ったのである。ただ、その思いは、レーベンシュタイン家の3人には全く届かなかったのだが。
 逆に、女の子には優しいが、必要以上に興味を持つことがなかったヴィクトールを見て、ヤロスワフは子どもの父親のヴィトールドを思い出していた。ヴィクトールとマリア=テレージアの組み合わせは、幼かった頃のヴィトールドとユーリアを思わせた。この二人はどう見ても最悪の組み合わせに見えた。アレクサンドルとヴィクトールは、双子なのに全然違う、とヤロスワフも思っていた。
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