FC2ブログ

年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第10章

第180回

「わたしは、今、とても悲しい。わたしは、あなたがそんなことをしているのを見るのがつらい。そんなあなたを見たくないんだ。お願いだ、クラリス、もうやめてくれないか?」
 クラリスは、エマニュエルの方を見た。彼の悲しそうな顔がぼんやり見えた。
「お願いだ」エマニュエルはもう一度言った。
「・・・どうして、そんなに悲しそうに見るの? 悲しいのは、わたしのほうだわ」
「あなたは、確かに悲しいだろうね。でも、あなたを愛しているわたしには、そんなあなたを見ているのが悲しいんだよ」
「愛してる、なんて、そんなに簡単に言わないで」クラリスの目から再び涙がこぼれ落ちた。「だいたい、そんなに簡単に人を愛することなんてできるのかしら?」
「できるでしょうね。愛なんて、理屈じゃないですからね」
「あなたは、わけのわからないことを言うのね・・・」
「そうですか? わたしは、あなたを89年からずっと見ています。ずっとあなたを待っているんです。あなたは、わたしがあなたを愛していることを知っているはずです」エマニュエルは優しい口調で言った。「だから、わたしには、あなたに、もう飲んではいけないと言う権利があると思っています」
 クラリスには、目の前の男性がエマニュエル=サンフルーリィだということがわかった。どうして彼がここにいるのか、かの女にはわからなかったが、彼がここにいても、今のかの女に不思議な感じはしなかった。
「クラリス、もう行きましょう。あなたは、もう、飲んではいけないのです」
 エマニュエルはそう言うと、カウンターに代金を置いた。そして、かの女の肩を支えて立ちあがらせた。
「ムッシュー=ヴァランタン、わたしは、このひとを送っていきます」
 そのあまりにも真剣な調子に、つれのヴァランタン夫妻は黙ってうなずいた。
 クラリスはあまりにも酔っ払っていた。どこに泊まっているかも覚えていないくらいだった。彼は、歩けなくなってしまったクラリスを背負って、自分のアパルトマンまで運んだ。かの女は、すでに、彼の背中で眠っていた。彼は、どうしようもなく悲しい気分と、かの女に再会できた喜びと、かの女が失恋して苦しんでいることへの同情で自分の気持ちをもてあましていた。
 彼は、自分のベッドにかの女を寝かせて、自分は隣の部屋のソファに横になったが、結局彼は一晩中眠れなかった。
 クラリスは目を覚ました。そして、見慣れない部屋の様子に驚いて、あたりを見回した。
 なぜか、頭が痛かった。
 やがて、前の晩、<名なし>で酒を飲んだことを思い出した。
 ・・・それにしても、ここはいったいどこだろう?
 かの女は起きあがろうとしたが、ものすごく頭が痛かったのでまた横になった。
 次に目を開けたとき、すぐそばにエマニュエル=サンフルーリィが立っていた。かの女は、びっくりして上半身起きあがった。 
関連記事
 関連カテゴリ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第一部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第二部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記  第三部
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 SIDE-B
総もくじ 3kaku_s_L.png 年代記 外伝
もくじ  3kaku_s_L.png データベース
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
総もくじ 3kaku_s_L.png 更新
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
総もくじ 3kaku_s_L.png 日記
  ↑記事冒頭へ  
*Edit
  ↑記事冒頭へ