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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第97章

第1782回

 そう言うと、シャルロットは悲しげな笑みを浮かべた。
「ライモンドから、わたしたちが本当の夫婦ではないと聞いていたんでしょう? だから、おなかの子どもは彼の子どもではないと確信した、そうでしょう?」
 弁護士は黙って頷いた。
「あなたは、わたしをとんでもない悪女だと思っているんでしょうね・・・」シャルロットはそう言ってため息をついた。「おかけになって、ミエチスワフさん。お話はまだ終わっていませんわ」
 彼はのろのろと座った。それを見て、ユーリアも腰を下ろした。
「亡くなったコヴァルスキーさんのお話だと、彼には同じ大学出身の二人の親友がいたそうね。大学を卒業した後、彼らはそれぞれの道を進んだ。コヴァルスキーさんは弁護士になるため大学院に進み、二人の親友はある貿易会社に勤めた。あなたのおじいさまは、その会社のライヴァル会社ともいわれる会社の経営者だった。彼は、自分の息子を自分の会社に入れる前に修行をさせようと考えた。それで、その会社に勤めさせたそうね。その会社の社長には、一人娘がいた。かの女はあなたのお父さまが気に入ったし、あなたのお父さまもかの女が好きだった。でも、二人の両親はその結婚に反対し、あなたのおじいさまはあなたのお父さまを無理に自分の会社に連れ戻し、かの女はあなたのお父さまの親友と結婚した。そのとき、あなたのお父さまは、親友と約束したのよね。もし、子どもが生まれたら、その子どもたちを結婚させよう、と。コヴァルスキーさんは、二人の約束の証人になった。約束された子どもたちは、同じ年に誕生した。先に生まれたのは、親友の家の女の子。次にあなたが誕生した。女の子はバルバラと名付けられ、男の子はミエチスワフと名付けられた。二組の両親たちは、あなたがたが結婚して家業を継いでくれれば・・・と願った。ところが、二人の子どもたちには別々の思惑があった・・・」
 弁護士はうなだれた。
「周りの人たちの願い通り、二人は幼い頃からとても仲がよかったそうね。当人たちだけではなく、周りの誰もが、彼らがこのまま大きくなって結婚すると信じた。将来、二人の会社は一つとなり、男の子は大きくなった会社の社長になる。彼らの両親はそれを夢見ていた・・・」シャルロットは続けた。「でも、コヴァルスキーさんの影響を受け、さらに彼の息子ライモンドの影響で、ミエチスワフ少年は弁護士にあこがれるようになっていた。さらに、婚約者のバルバラは、天使のような美しい歌声の持ち主だった。かの女は周りの人たちのすすめもあって、声楽の勉強をしてみたいと思うようになった。そんな二人が目をつけたのは、コヴァルスキーさんが勧めたある学校だった。コヴァルスキーさんの親戚の子どもが通っているフランスの全寮制の学校は、ユニークな学校だ。その卒業生は、実に様々な進学先を選ぶ。勉強にも音楽にも力を入れているからだ。そこで、ミエチスワフは、フランスの大学に進学するためにフランスの高校に行きたいと願い、バルバラはその高校で音楽を勉強できるし、ミエチスワフと同じ学校で学びたい、と両親を説得した。そして、二人はヴィトールドが通うその学校の入学試験を受けた」
 弁護士は小さく頷いた。
「彼らは自分たちの本当の夢を両親たちに話さなかった。少年の本当の夢は、フランスで法律を勉強することだったし、少女の夢はオペラ歌手になって世界のステージに立つことだった。もちろん、二人は結婚し、家庭を持つつもりでいたけど」そう言うと、シャルロットは小さくため息をついた。「二人の人生設計は、ある出来事のために狂いを生じた。それは、最初はレショフスキー夫妻の意向、という形で現れたのよ。あなたのご両親は、あなたがごく普通のお嬢さんと結婚して、自分たちのあとを継いでくれることを願っていた。レショフスキー夫妻は、悪気がないままバルバラを縛り付けたのよ。『もう、歌の勉強は必要ないわ。わたしの出た女学校へ通って、結婚前の最後の修行をしてちょうだい』・・・こうして、1913年の夏の終わりに、あなたは一人でフランスへ戻っていった。バルバラは一年間辛抱したあと、グディニアを飛び出して、フランスにいるあなたのもとへ行こうとした。ところが、戦争になり、あなたは逆にグディニアに帰ってきた。二人は、行き違いになってしまったのよね」
 弁護士はぽつりぽつりと話し出した。「・・・戦争が終わったとき、父の会社は倒産していた。バルバラの家族は、ドイツに移住してしまっていた。わたしは、コヴァルスキーさんを頼ってワルシャワへ行き、彼の援助で大学へ行き、その後フランスへ渡った。その地で、わたしは友人であるフリーデリック---フリーデマンさんに再会し、彼の口から、バルバラが亡くなったことを聞かされた。その晩、わたしたちはかなり酒を飲んだ。隣に座っていた女子留学生を酔った勢いで口説いたことは覚えている。だが・・・翌朝、ベッドにかの女がいたことに、かなりショックを受けた。・・・そのときの女性が、今のレショフスカ夫人だ」
 シャルロットは驚いたが、すでに事情を知っていたレーベンシュタイン夫妻は小さく頷いただけだった。
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