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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第97章

第1783回

「たった一回」ミエチスワフは続けた。「たった一回の過ちのため、わたしはフェリーシャと結婚した。コヴァルスキーさんは、ひどく腹を立てて、フェリーシャにも娘のコンスタンティアにもとうとう一度も会ってくれなかった。ただ、『責任を取ったのは正しいことだった』ということで、わたしのしたことは許してくださった。ポーランドに帰ってきたわたしに最初の仕事をくれたのは彼だった。わたしは、彼に助けられ、ライモンドに助けられた。今の自分があるのは、二人のおかげだと思っている。だからこそ、わたしはあなたに言わなければならなかった。二人が残したものを守るのも、わたしの仕事だと思ったからだ」
 そう言うと、彼はそっとため息をついた。
「・・・わたしとかの女が関係を持ったのは、そのとき一度だけです。ですから、あなたとライモンドの関係を聞いても、わたしにはあなたを責める権利はないと思ったのです。あなたにその気がないのなら、強制すべきものではないと思うからです」
 それまで黙って話を聞いていたルドヴィークは、彼にしてはきつい口調で口をはさんだ。
「夫婦関係がない? では、きみはどうしてかの女と結婚したんです? 責任を取るといっても、結婚以外の方法だってあったでしょう? たとえば、子どもが成人するまで養育費を払うとか・・・」
 ユーリアはむっとしたように言った。「あなたの口からそんな言葉を聞くなんて、信じられない。まさか、あなたにも・・・?」
「・・・断じてない!」ルドヴィークは強い口調で遮った。「わたしにとって、きみが唯一の女性だ。きみが初めての女性だったし、これまでほかの女性を抱いたことは一度もない。さらに言えば、生涯きみ以外の女性と関係を持つつもりはない」
 ユーリアは真っ赤になった。それを見ているうちに、ルドヴィークも赤くなった。第三者の前で言わなくてもいいことを言ってしまったと気づいたからだ。
 彼らの間にあった緊張感が緩んだ。しかし、ミエチスワフはもう一度その緊張感を呼び戻した。
「わたしは、弁護士を目指していました。そんな人間に、正しくない道を選ぶという選択肢はありませんでした。わたしは、かの女の子どもを自分の子どもとして育てる義務があると考えました。ですが、かの女を愛してはいない。そうなれば、結論は一つです。わたしは、かの女と結婚する。だが、扶養する義務以外の一切を放棄することを選びました。わたしたちは、夫婦として一緒に出なければならない場をのぞいては、一緒に行動することさえありません。その点、わたしとライモンドは違いました。ライモンドもまた、一人の女性をずっと愛していました。ですが、その女性を亡くし、あなたを---別の女性を伴って帰国したとき、彼は間違いなくあなたを愛していました。わたしは、彼らしからぬその態度をずっと不思議だと思っていました。わたしも彼も、幼い頃からずっと愛していた女性を失った。でも、わたしは愛していない女性と結婚し、彼は愛する女性と結婚しなかった。彼は、あなたを愛するあまり、あなたが彼を愛するようになるのをじっと待ち続けたんです。彼が亡くなったとき、最初、彼がとうとう思いを遂げたのだと思いました。ですが、あなたを見ているうちに、それは間違いだと気づきました。だとすると、その子どもの父親は誰か、という問題が残ります。わたしには、それを知る権利はないが、コヴァルスキーさんの弁護士としてではなくライモンドの友人としての立場から、コヴァルスキーさん---もしくはライモンド---の子どもではない子どもを相続人だと見なすことはできない、という結論に達しました。たとえ、コヴァルスキーさんが、遺言でその子どもを認知しても、です」
 ミエチスワフは、急に言葉を切り、こう訊ねた。「ライモンドはいい人でした。どうして、彼を好きになれなかったんですか?」
「彼のことは大好きでした。ですが、結婚するほど好きだったかと聞かれれば、そうではなかった・・・それが答えです」シャルロットはそう答えた。
「それほどまでに、ヴィトールドのことを?」ミエチスワフはそう訊ね、自分で首を振った。「違いますね。あなたが愛している男性は、マルフェ---コルネリウス=ド=ヴェルクルーズだけだ・・・そうなんですね?」
 シャルロットは涙ぐんで下を向いた。
「だとすれば、わたしにはあなたを許すことはできない」ミエチスワフは言った。「あなただけが幸せになることは許さない。バーシャが死んだのは、あなたとマルフェのせいだ。あなたがかの女と一緒にアメリカに行かなければ、かの女があなたのせいでアンダースン先生のところから追い出されなかったら、かの女はあんな死に方をしないですんだかもしれない」
 シャルロットはびっくりして顔を上げた。誰が、そんなでたらめをミエチスワフに告げたのだ? 自分とバーシャが喧嘩した原因はかの女の方にあったのであって、追い出されたのは自分の方だ!
 部屋から出て行こうとした彼の後ろ姿に向かって、シャルロットは言った。
「バーシャは、最後に、『ミエテクにごめんなさいと伝えて』と言ったそうよ」
 彼は一瞬立ち止まった。その背中がぴくりと揺れたような気がした。しかし、彼は振り返らずに出て行った。
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