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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第10章

第181回

「・・・起こしてしまったかしら?」エマニュエルは優しく訊ねた。
「・・・ここは?・・・どうして、ここにあなたがいるの?」クラリスが訊ねた。
「ここが、わたしの家だからですよ」エマニュエルはほほえんだ。「どうしてここにいるのか、思い出せない?」
「・・・わからないわ・・・」クラリスが答えた。
「きのう、わたしに会ったことも、覚えていない?」
 クラリスは首を振った。
「でも、もう起きた方がいいですよ。もう、2時ですからね」
「2時って・・・お昼の・・・?」
 エマニュエルがうなずいた。クラリスは赤くなった。
「パンとスープしかありませんが、昼食はいかが?」
 クラリスは当惑したような顔をした。
「さっき、学校から帰ってきたところです」
「学校・・・?」
「セザール=メランベルジェ校で、エティエンヌ=ヴァランタン先生に作曲を学んでいます。ヴァランタン夫人に、あなたのことをしつこく聞かれましたよ」
「ヴァランタン夫人?」
「シモーヌ=アラン=ヴァランタンですよ」
「・・・ああ、シモーヌね。でも、どうして、シモーヌが?」
「・・・覚えていない・・・ですよね。昨日は、ヴァランタン夫妻と一緒に<名なし>に行きました。そして、あなたに会ったんです。あなたは、カウンターで酔っ払っていました。わたしは、そんなあなたを見ていたくなかった。だから、連れてきたんです」
 クラリスは恥ずかしそうに下を向いた。
「どうして、あんなになるまで飲んだのか、あなたは泣きそうになって説明してくれましたね。どうして、ロビンと別れようなんて考えたのです? あんなふうに飲むくらいなら、別れるべきじゃなかった、そうでしょう?」
「・・・昔、エドゥワール=ロジェが言ったわ。『わたしは、自分に正直じゃなかった。でも、きみは正直に生きなさい』・・・でも、正直なだけでは幸せになれないことを教えてくれたのも彼だった。その彼が逃げ場にしていたのがお酒だった。だから、わたしも飲んでみたかったのよ・・・」クラリスが言った。かの女は、自分の言葉が彼の質問の答えになっていないとは気づいていなかった。
「自分に嘘をつくために?」エマニュエルが訊ねた。「そんなことをして、いったい何になるって言うの? そんなにしてまで、ロビーと別れたいの?」
「わたしは、幸せになりたいの。恨んだり、恨まれたり、争ったりするのはいや。<ザレスキー=フランショーム戦争>なんてもうたくさん。だから、別れたのよ」クラリスは挑戦するような口調で言った。「わたしには、もう耐えられないわ」
 エマニュエルは何も言わなかった。
「わたしは、確かに、自分に嘘をついている。でも、もう、いいの。エマニュエル、わたしは、もうお酒なんて飲まないわ。何の解決にもならないし、それに・・・」クラリスはほほえんだ。「こんなに頭が痛くなるのは、もうたくさん」
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