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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第97章

第1789回

 1931年夏、シャルロットが待ち望んでいた知らせが研究所から届いた。手紙はいつものように<クリスティアーナ=コヴァルスカ>名義だった。その手紙には、2枚の写真が同封されていた。最初の写真に写っていたのは3人の子どもたちだった。ちいさな女の子を真ん中にして、両側に二人の男の子が立っている。3人とも、手に<サント=ヴェロニック校入学許可証>と書かれた紙を持っていた。写真の裏に名前と撮影日が載っていたが、シャルロットには3人が誰かすぐにわかった。真ん中にいるのが娘のアンジェリーク、右側の少年がスタニスラス、左側の少年がジェルマンだ。もう一枚の写真には、もっとたくさんの子どもたちが写っていた。写真の裏側に書かれている名前を見て、シャルロットは時間の経過を感じた。
「ジュリアン=ジュメール、ジャン=セバスティアン=ジュメール、フランソワーズ=ジュメール、アリス=ベルリオーズ、ロベール=フランショーム、ガブリエル=ド=メーストル」シャルロットは、自分の子どもたち以外の名前を読み上げた。なんということだろう。彼らの両親のどちらか、あるいは両方に心当たりがある。今度は、子どもたちが学友となるのだ。
 シャルロットは首をひねった。フランソワ=ジュメールの子どもは三つ子だったのだろうか? そんな話は聞いたことがない。
 かの女はアレクサンドルからの手紙に目を通した。
 シャルロットとヴィトールドの子どもは<特別入学許可証>を持っていたが、3人とも通常入試を受けたらしい。そして、1位で入学を決めたのはアンジェリークだった。2位がジュリアンとガブリエル。この年の入試を受けた子どもたちは、飛び級で小学校を卒業した子どもたちが多く、子どもたちの年齢もばらばらだ。1920年生まれはスタニスラス、ジュリアン、アリス、ロベール、ガブリエルの5人で、ジャン=セバスティアンとフランソワーズの双子は二つ年下の1922年生まれだということだ。1925年生まれのアンジェリークが最年少だったのだという。入学試験直後に受けた試験の結果、ジュリアンとガブリエルは一つ上の学年に編入が許されたらしい。本当は、アンジェリークも上位クラスの編入を示唆されたが、兄よりも上のクラスには行きたくないと言って固辞したのだそうだ。ザレスキー兄妹は外国籍を持っていたのだが、地元の公立小学校を卒業していることもあり、フランス語特別教育を受ける必要なしということで全員7組以外のクラスに入った。そして、アンジェリークは新任の作曲教師リシャール=マティスが教えることが決まったということだ。
 リシャール=マティスがフランスに戻っていた・・・。
 もしかすると、フリーデマンの沈黙の理由の一つはこれだったのではないだろうか。親友の帰国で、彼は本当にひとりぼっちになってしまったのだ。
 『これが、わたしの子どもたちよ』と言いながら写真を渡されたレーベンシュタイン夫人は、じっと見つめてから顔を上げた。
「わたしたち、フランスに行ったら、あなたの子どもたちに会ってくるわ」
「フランスに・・・行く?」
「ええ。演奏旅行が決まったの。ドイツとフランスに行くわ。そして、グルノーブルでタデックと合流して、ピアノカルテットの演奏会を行ったあと、一緒にポーランドに戻ってきて凱旋演奏会よ。今度は、長い旅行になるわ。来年の春に戻ってくるの。それまで、テレーニャのこと、お願いね」そう言うと、ユーリアはウィンクした。「もっとも、今だって、ここはテレーニャの寄宿学校みたいだけどね」
 ルドヴィークは、真剣な顔つきになり、口を開いた。
「折り入って頼みがある。非公式でかまわないから、将来、うちのテレーニャをスタニスラスと結婚させると約束して欲しいんだ」
 シャルロットは仰天した。「まさかあなたがそんなことを言うなんて・・・」
「わたしは、ザレスキー一族の当主から婚約者を奪った男だ。だから、彼の息子に---次の当主に、自分の娘を嫁がせたいんだ。ぜひ、そうさせてくれ」
「正気の沙汰とは思えないわ」シャルロットが言った。「もちろん、テレーニャはスターシェックにとって申し分がない女性だわ。だけど、当人たちの意思を無視して決めてもいいものかしら? わたし、テレーニャには、好きな男性と結婚して欲しいと思っているの。かの女のことは、ずっと娘だと思っているし、息子たちの誰かの妻に迎えることができたら最高の喜びだと思っているわ。でも、周りの思惑はともかくとして、本人たちがそう望まないのなら、無理に婚約させる必要はないと思うの。もしも、ヴィトールドとユーリのように相性が合わなかったとしたら、あなたはそれでも自分のお嬢さんに結婚を強制するの?」
 ルドヴィークはうなだれた。しかし、彼はすぐに顔を上げた。
「だから、彼に会ってみたいんだ。わたしの目から見て、かの女が彼を好きになれそうかどうか見極めたい。もしも、きみが許してくれるのなら、彼にその提案をしてみたいんだ。そのとき、彼が何というか聞いてみたい」
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