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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第98章

第1801回

「そもそもの始まりは、クリモヴィッチ家の<きょうだいたち>からだ」タデウシの話は思い出から始まった。「クリモヴィッチ家の子どもたちは、それぞれ何か得意な楽器を持っていた。最終的に、音楽学者を目指したルーディ以外の全員が演奏家の道を進んだ。ユーリはウィーンに留学した。マリアーン=ブラッソンとわたしはベルリンでピアノの勉強を続けた。そして、マレク=シュヴァルツは、パリに勉強に行った。彼はそのとき、自分の専攻をヴァイオリンではなくヴィオラに決めたんだ。ずっと両方学び続けていたんだが、たとえ留学したとしても、ヴァイオリンで食べていくだけの実力が身につくとは思えないと思ったのだろう。彼は、本当は室内楽をしたかったのだが、その夢が叶わなければどこかのオーケストラに入るつもりでいたらしい」
 シャルロットはちいさな声で言った。「そのマレクさんが、カルテットのヴィオラ奏者なのね?」
 タデウシは頷いた。
「あなたたちが、彼の話をしたことが一度もなかったから、わたしは彼のことを全然知らなかったわ」
「知らなかったとは思わなかった。ルーディかユーリがきみに紹介しているとばかり思っていたんだがね。何と言っても、マレクは自分から自己紹介するような積極的な男じゃないしね」
 そのとき、扉が開いて、男の声がした。
「・・・きみにそう言われるほど、あいつは消極的なやつじゃないはずだがね」
「ルーディ!」その声を聞くと、タデウシは飛び上がって驚いた。
 ドアのところにはレーベンシュタイン夫妻が立っていた。
 シャルロットは彼らの元に駆け寄り、ユーリア、ルドヴィークの順に挨拶を交わした。
 涙ぐんでしまったシャルロットに、ユーリアは優しく声をかけた。「久しぶりね、クリーシャ。ほら、母親とはぐれて迷子になった子どもみたいな顔をしないでちょうだい」
 シャルロットは激しく瞬きをした。
「それより、なぜマレクの話なんかしていたの?」ユーリアはタデウシと挨拶を交わしながら訊ねた。「久しぶりに再会したのだから、自分の話でもすればいいのに」
「クリーシャが聞きたがったんでね」
 レーベンシュタイン夫妻はモジェレフスキー夫妻と挨拶してから空いている席に座った。
「マレクの話か。どんな話でも聞かせてあげよう。彼の初恋のひとについてか? それとも・・・」ルドヴィークはにやりとした。
 そのとき、紅茶が運ばれてきたので、話はいったん途切れた。
「初恋のひとの話は別の機会にでも」ユーリアが紅茶を口に運びながら言った。「その話を始めると、カルテット結成の話になかなかたどり着けなくなるから」
「いや、本当は近道なんだぞ。なんせ、彼の初恋の女性は、ユーリア=クリモヴィッチだったんだから」
 それを聞くと、ルドヴィークは思わず口に含んだ紅茶をふきだした。ユーリアは爆弾発言をしたタデウシをにらみつけてから、ハンカチでルドヴィークの服を拭いた。シャルロットも、あわててテーブル周りを片付け、紅茶を入れ直した。
「・・・ほんとうなのか、今の話?」ルドヴィークは咳き込みながら訊ねた。
「たわいもない話よ」ユーリアはほほえみながら答えた。「3歳の彼が両親に連れられてうちに来たとき、初対面のわたしに言ったの。『きれいなおねえさん、いつかぼくと結婚してください』・・・わたしは即座に彼をひっぱたいたのよ。そうしたら、彼は涙目になって言ったの。『・・・やっぱり、年下の男は嫌いですか?』って。それが、どうして初恋の話ということになるのか・・・」
 そう言うと、ユーリアはため息をついた。
 ルドヴィークはむっとした表情のままだった。「今度会ったら、ぶん殴ってやる。このわたしより先にプロポーズしていたとは!」
 それを聞き、その場の全員が爆笑した。
 そこへ、ノックの音がしてマリア=テレージアが飛び込んできた。かの女は、両親が帰ってきたと聞き、客間に押しかけてきたのだ。ユーリアは、礼儀をわきまえなかった娘をしかったあと、優しく抱きしめた。ルドヴィークも娘を甘やかすように抱いたあと、図書室で待っているようにと言い聞かせた。かの女は渋々部屋から出て行った。
「・・・彼の初恋の女性は、マリア=リピンスカ嬢だとばかり思っていたのだが」ルドヴィークはぽつりと言った。
「あら、もちろんそうよ」ユーリアは頷いた。「そうに決まってるでしょう?」
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