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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第98章

第1802回

「マリア=リピンスカ?」シャルロットは首をかしげた。「ピアニストの?」
「そうだ」ルドヴィークが言った。
 しかし、タデウシは話を戻した。「違うって言ったじゃないか。マレクは、3歳の時のプロポーズを忘れなかった。彼は、ずっとユーリのそばにいたかったんだよ。だから、同じチェロを選ばなかった。わたしやマリアーンを見て、専属の伴奏者になるのもハードルが高いと思った。チェリストのユーリのそばにいる方法は、そのほかには室内楽しかない。かの女と一緒に室内楽をするなら、ヴァイオリンかヴィオラを選ぶべきだが、自分程度のヴァイオリンの腕では、必死に特訓したところでユーリが一緒に室内楽をしようとは言ってくれないだろうと思った。それで、競争者が少ないヴィオラを選択するに至ったわけだ。留学して最後の仕上げをしようとしたとき、ユーリとルーディが結婚し、彼は失意のうちにフランスへ行ったというわけだ」
「失意のうちに?」ユーリアは笑い出した。「とんでもない。彼は、帰ってきたら一緒に室内楽をしようと約束を取り付けた上で、意気揚々と留学したのよ」
 タデウシは大げさにため息をついた。「・・・これだから、あいつはいつまでたっても結婚できないんだな」
 ルドヴィークがにらみつけたので、タデウシは話題を戻した。「音楽院に入り、彼がまず最初にしようとしたことは、伴奏者の確保だった。しかし、それは難しいことではなかった。練習室で彼の演奏を聴いたチェスワフ=リピンスキーが、即座にピアノ科の新入生だった妹さんを紹介してくれたからな。チェスは、マレクの腕前に惚れ込んでしまって、彼と弦楽四重奏を組むためになら何でもする気でいたんだ」
 タデウシはにやりとした。「だが、マレクは、彼と弦楽四重奏をするのは学生時代だけだ、とつっぱねた。自分には、ポーランドで帰りを待っていてくれるチェリストがいるのだ、と言うと、彼は『それなら、わたしも一緒にポーランドへ帰る』と言ったんだ。ところが、マリアが好きになったのは、イギリス系フランス人のアンソニー=クラウスだった」
「アンソニー=クラウス、ですって?」シャルロットは目を丸くした。
「そう、カルテットの第二ヴァイオリンを弾くクラウスだ」タデウシは頷いた。
「以前、彼のことをアントーニ=クラウス、と紹介したわよね。イギリス人のヴァイオリニストだと」シャルロットはむっとしたような表情になった。
「そうだけど?」ユーリアは首をかしげた。
「彼は、イギリス人ではなくフランス人だったでしょ。それに、彼の専門はヴァイオリンではないはず・・・」
 シャルロットの機嫌が悪くなったのを察して、ユーリアは慌てたように言った。「でも、今の彼はヴァイオリニストよ」
「彼の専攻はコントラバスだったはず」その言葉に、ユーリアとタデウシは頷いた。シャルロットはさらに不機嫌になった。「どうして初めからそう言ってくれなかったの? わたしは、彼と知り合いだったなんて気づかなかったのに」
「彼と知り合いだったの? 知らなかったわ。彼も何も言ってくれなかったのよ。いえ、たぶん、気づいていないのだと思う」ユーリアが言った。「・・・ということは、あなたは、チェスの奥さまも知っていたと言うこと?」
「リピンスカ夫人とは面識はないわ」シャルロットは答えた。
「かの女もフランス人よ。クラウスとは高校時代からの知り合いで、結婚前にはシュザンヌ=ド=ブリューヌと名乗っていたわ」
「シュザンヌ=ド=ブリューヌ?」シャルロットはその名前を聞いて驚いた。「・・・学生時代は、校内ではその名を知らぬものはいないという秘密組織(ル=グループ=トレーズ)のメンバーだったわ。わたしは、かの女の名前を聞いたことがあるだけだけど、組織のメンバーだったヴィトールドなら、かの女のことをよく知っていたはず・・・」
 シャルロットは突然顔を上げた。「・・・ということは、情報源はリヒャルト=マティスだったのね!」
「あなた、リヒャルトとも知り合いなの?」ユーリアは驚いて口をはさみ、シャルロットがさらに不機嫌そうな表情をしたのを見て慌てて黙った。
「・・・情報源、って・・・?」ルドヴィークがおそるおそる訊ねた。
「<ル=グループ=トレーズ>の情報網はバカにできない、ということね。今度は忘れないわ」シャルロットは不機嫌そうにそう言うと、ゆっくりと紅茶のカップを口に運んだ。それでも怒りはおさまらず、かの女は爆弾を投下した。
「ドイツ人の新聞記者から手紙をもらったわ。わたしの正体を知っていると。<コペルニク=カルテット>のメンバーたちから聞いたのだと・・・」
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