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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第1章

第18回

 メランベルジェの死より約1年前の話にさかのぼる。
 フランソワーズ=ド=ラヴェルダンの家に、かつての恋人ルイ=フィリップ=ド=ルージュヴィルがやってきたことが、その転機の始まりであった。
 二人が最後に会ったのは、それより5年も前の話である。かの女の「弦楽四重奏曲<アレックス>」の初演の日の夜のことだった。かの女は、彼との関係はそれで終わりだと思っていた。彼と再会する日が来るとは思っていなかったのである。
 彼は、全体に地味な感じの服装をしていた。黒のネクタイは喪章を思わせた。
「実は、妻が亡くなったんだ・・・」彼はそうきりだした。
「まあ。お気の毒に・・・」フランソワーズが答えた。
「・・・といっても、もう、1年も前の話だが・・・」ルイ=フィリップが言った。
 フランソワーズは、黙っていた。
「亡くなる前に、かの女は、きみに謝っていた。自分がいたから、3人の人生が狂ってしまったんだ、って苦しんでいた」
「あなた、まさか、かの女に話したの?」フランソワーズが遮った。
 彼はうなだれた。
「わたしは幸せだった、って言ったはずよ、シャロン」フランソワーズが言った。「なんて残酷なことを・・・」
 自分の夫には、過去に恋人がいて、二人の間に子どもまでいた・・・なんて話を聞かされたら、普通の女性ならまいってしまうだろう。なんて残酷な話なのだ・・・とフランソワーズは思った。
「・・・かの女は言った。自分が死んだら、もう一度3人でやり直して欲しい。それがかなわないなら、せめて、その男の子をあなたの後継者にして欲しい・・・。きみに、そう頼んで欲しい。そう言い残したんだ」ルイ=フィリップが言った。
 フランソワーズは思わず絶句した。
「・・・いまさら、そんなこと言われても・・・と、きみなら言うだろうな、フラニー」
 フランソワーズはわれに返った。
「そのとおりよ、シャロン。いまさらどうにもならないわ」フランソワーズが言った。「どうにかできるなら、今じゃなく、15年前に言って欲しかった」
 そう、もし、15年前だったら・・・。でも、いまさらどうにもならない。二人とも、もうまったく別の人生を歩んでいる。あの分岐点には、決して戻ることはないだろう。
「・・・でも、あのときには、あなたはそう言ってくれなかった。あなたが選んだのは、わたしじゃなかった」フランソワーズは苦い思い出を払うように首を振った。「あのときに、決まったの。もう、わたしたちの道は交わることはないのよ」
 ルイ=フィリップは、また下を向いた。
「あなたは、本当はよくわかっているはず。あなたが愛しているのは、あなたの奥さまだわ」
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