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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第100章

第1834回

「ばかね、マリアーン。そうじゃないって何度言ったらわかってくれるのよ」ユーリアは優しく言って頭一つ高い彼の頭をぽんとたたいた。「もし、あなたの言葉が正しかったとしても、わたしは幸せになったから、何の心配もいらないのよ」
 マリアーンはかの女を見下ろし、涙で濡れた顔にほほえみを浮かべた。「そうだね、きみには大切な人がいる。すばらしいお嬢さんもいる。よく知っているよ」
 そう言って、マリアーンはユーリアから離れ、かの女の手をルドヴィークに渡した。
「・・・ごめん。話の腰を折ってしまったね。そうだ、タデーの話だったよね」マリアーンは涙をふいた。「タデーはこう言ったんだ。自分は、本当の両親ではない人たちに育てられたが、幸せな子ども時代を過ごすことができた。自分も、結婚したらあんなあたたかい家庭を作りたいと思っていた。愛する女性と一緒なら、きっとそんな家庭を作ることができると夢見ていた。だが、少し軌道修正すれば、その家庭を自分も作ることができる。自分とかの女の間の子どもが一人もいなくったって、クリモヴィッチ夫妻と同じように努力すれば、きっと子どもたちを幸せにすることができるはずだ。幸せな家庭を作ることができれば、自分もかの女も幸せになるはずだ。わたしたちが幸せだったんだから、クリモヴィッチ夫妻が不幸だったはずはない」
 クリモヴィッチ家で育った全員が頷いた。
「・・・かの女との結婚式を、クリモヴィッチ夫妻に祝福してもらいたかった。彼らなら、わたしの今度の結婚をきっと祝福してくれただろう・・・タデーはそう締めくくったんだ」
 ユーリアは何度も頷いた。
「そう言ったときの、タデーの表情を見て、わたしは彼がもう一度かの女にプロポーズするつもりだと思った。うーん、もう少し早く到着すれば、そのプロポーズの場に間に合ったみたいだな。残念なことをした」
 タデウシとシャルロットは真っ赤になった。
 そのとき、ノックの音がした。顔を出したのは、マレク=シュヴァルツだった。
「ルーディ? タデックはここにいるんだろう?」マレクは一歩踏み出して部屋に入った。彼の目に入ったのは、レーベンシュタイン夫妻とシャルロットだった。
「・・・あれ?」マレクは間抜けな声を出した。「どうなってるんだ?」
「タデックは、ここだ」ルドヴィークは、自分がマレクの視界を遮っていることに気づき、一歩下がった。
 マレクは、タデウシとマリアーンが手を取り合っているのを見て驚いた。久しぶりに会うマリアーンに挨拶をすべきか、タデウシの状態を確かめるのが先かとっさに判断し、まずタデウシの所に駆け寄った。「・・・タデック? 無事だったんだな? よかった。顔色もいいみたいだし」
「顔色?」マリアーンは首をかしげた。
 マレクは、その声に反応し、続いてマリアーンを驚いたように見つめた。
「元気だったか、マルク」その場に立ち止まったマレクに駆け寄り、マリアーンはマレクを抱きしめた。
「ああ、どうにかな」マレクはうれしそうに返事した。
「今、顔色と言ったよな?」マリアーンは、今度はポーランド語で訊ねた。フランス語なまりの強い言葉は、彼があまりポーランド語が上手でないことを示唆している。だが、マレクは意に介せずにフランス語で答えた。
「うん。実は、大変なことが起こってね」マレクは全員の顔を見てから、続きを言った。「実はな、こいつが大変なことをしでかしてね」
 マリアーンはタデウシを見た。「こいつって、タデーか?」
「うん。だが、どうやら大丈夫だったようだな」後半はタデウシに言った。そして、ドイツ語で言った。「会話を<公用語>に切り替えるよ。このままだと、次は何語で話すべきか考え込むことになりそうだからね」
 シャルロットは頷いた。ドイツで暮らしていたクリモヴィッチ家の人たちにとって、ドイツ語が公用語だったようだ。とはいうものの、マリアーンのポーランド語を聞く限りでは、ポーランド語とフランス語も彼らの間で使われていたのは確かだ。それと同時に、彼らはその3カ国語は、不自由な点があっても使うことができる---つまり、ここでは内緒話厳禁、と言いたかったに違いない。
「いいよ。でも、懐かしいな。このメンバーでドイツ語か」マリアーンはそう言った。「これで、両親がここにいればな」
「うん・・・」マレクはしょんぼりと下を向いた。
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