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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第一部」
第10章

第187回

 サンディはびっくりしたようにオーギュストを見た。
「・・・でも、いい気味だ。彼も、少しは苦しむべきなんだ。せめて、クラリスの半分程度はね」オーギュストがつぶやいた。
「・・・どういう意味?」
「気づかなかったの? 彼は、ロベール=フランショームだった」
 サンディは驚いた。その話が聞こえるところにいた全員が、オーギュストに驚いた顔を見せた。
 オーギュストは、黙ったまま彼が飛び出していったドアを見つめていた。
 やがて、サンディが言った。「・・・きみは、プランセスのことを、まだ・・・?」
 オーギュストは首を横に振った。「それもあるけど・・・そうじゃない・・・それだけじゃない・・・」
 彼は、目の前のグラスの中味を飲み干し、サンディに言った。「告白するとね、わたしは、ヘルムートがクラリスに・・・つまり、あの事件が起こったとき、プランセスがかわいそうでならなかった。でもね、プランセスには気の毒な結末だったけど、かの女はどっちにしてもあとわずかな命だった・・・だから、かの女のことはあきらめがつく。かの女も、恐らく誰のことも恨んではいなかっただろう・・・」
 サンディはうなずいた。「プランセスは、優しいひとだったからね・・・」
「でも、クラリスもヘルムートも、あの事件の後で、ずっと自分を責め続けていた。クラリスは、黙ってパリを去ることを選んだ。ヘルムートは、ロベール=フランショームに挑戦状を送りつけた。彼は、プランセスが残した日記から、クラリスが誰を愛しているのか知った。彼は、その男がクラリスにふさわしいかどうか、自分で確かめようとしたんだ。彼らは、同じプログラムで4回公演を行った」オーギュストが言った。「ヘルムートは何も言わないけど、トマシが面白いことを教えてくれた。あの男は、2度目のコンサートの時には、ヘルムートの意図を読みとって、喧嘩に応じたんだそうだ。ヘルムートもそれに気がついた・・・。だから、あの2度目の演奏会が、一番評価が高かった・・・んだそうだ」
 一同は、黙ったままオーギュストの話を聞いていた。
「でも、ヘルムートは、その2度目の演奏会の時に、彼を正しく評価した。彼には、クラリスはふさわしくない・・・ヘルムートはそう思ったそうだ。そして、3度目にはヘルムートが喧嘩から降りた。そして、4回目には、3人ともまったく気持ちが入らないコンサートをしたのだそうだ」
 サンディは、彼らのコンサートを思い出し、トマシが言っていたことが正確な論評だと思った。
「わたしは、ヘルムートがうらやましかった。わたしも、彼に仕返しがしたかった・・・」オーギュストが言った。「わたしは、プランセスが埋葬され、クラリスが去っていくのを見たとき、自分は悲しいのではなく、怒っているのだと気がついた。そう、あんな事件を起こしてしまったヘルムートに対してね。でも、何よりもショックだったのは、自分がプランセスの死より、クラリスが去ったことを悲しんでいるのだということに気づいたことだった・・・。わたしは、クラリスを愛していることに気づいて、愕然としたものだ。・・・笑わないでくれ。わたしは、仕返ししたんだ、クラリスを苦しめたあの男に・・・」
「・・・もう言うなって・・・」マスターは彼の肩に手を置いた。「わしらが気づいていなかったとでも思っているのかい?」
 オーギュスト=デュランは、彼の優しい目を見つめた。そして、両手に顔を埋めて泣き出した。
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