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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第100章

第1838回

 マリアーンは、真剣な顔をして言った。
「答える前に、一つ聞いてみたいんだが」
「うん?」タデウシは顔を上げ、マリアーンを見つめた。
「もし、もしもだよ・・・きみが選んだ女性を、わたしがどうしても好きになれなかったら、どうする?」
 ルドヴィークははっとして口を開きかけたが、タデウシはそれには気づかずに答えた。
「身を引くよ・・・それできみが幸せになるというのだったら」
 マリアーンはそれを聞いて、表情を少しだけほころばせた。「あいかわらず即答なんだな? あんなにきれいな女性なのに」
「大切なのはきみだ。わたしは、きみが嫌いな女性を好きになったりはしたくないし、きみが好きな女性と同じ女性を好きになってしまったら、きみにかの女を譲るよ。昔、そう約束したじゃないか?」
 ルドヴィークは『えっ?』という表情を見せた。この二人は、確かに幼い頃からべったりとくっついていたが、そんな会話までしていたとは気づかなかった。マレクも同じような表情をしていた。
「そんな約束、もう無効だよ」マリアーンは優しく言った。「きみは、わたしと結婚するわけじゃない。きみは、きみの家庭を作るべきなんだ。その家庭の幸せにとって、わたしが邪魔者だったら、わたしを排除すべきなんだ。もういいかげん、大人になれよ」
 タデウシはうなだれた。「わたしたちは、普通の兄弟じゃない。一つの家族であり、一つの共同体だった」
「だが、そこにほかの感情を持ち込むべきじゃない。もし、誰かを好きになって、その人と家庭を持ちたいと思うのなら、何があっても新しい家族を守るべきだ。そのために、もし、今までの家族が邪魔になるのなら、家族を切り捨ててでも自分の新しい家族を守るべきだ。きみは、いまだにその覚悟ができていないのか? それとも、まだ、それほどかの女が好きじゃないのか?」
「二人とも好きなんだよ!」タデウシはそう叫び、わっと泣き出した。「二人とも、同じくらい大切なんだ!」
 ルドヴィークは、タデウシの肩を抱いた。「そろそろ、話をやめた方がいいんじゃないか?」
「いや、話しておきたい」マリアーンが言った。「こいつにも、いい加減大人になってもらわなくてはならない」
 そして、タデウシに言った。
「誰かを好きになるとは、誰かと家庭を持つというのは、時としてものすごい覚悟の上に成り立つものなんだよ」マリアーンは優しく言った。「世界中の誰よりもその人が大好きで、その人がいなければ生きているのもつらいと思えるくらい好きな相手でなかったとしたら、その相手と結婚すべきではない。そもそも、その程度の覚悟もないのでは、相手の女性に失礼だ。かの女は、自分の命と引き替えにしてもいいと思うくらいにきみを愛しているはずなのに」
 タデウシは涙をふいた。それでも、まだ涙は止まらなかった。
「・・・たしか、昨日の夜、かの女はそう言ったんだったよな?」マリアーンは言った。「そして、きみは、その女性との恋に破れたと思って死のうとした。つまり、きみにはもう覚悟ができていると言うことだ。もう、そこに、わたしを巻き込むな」
 タデウシは頷いた。
「わたしが何と言おうと、きみはかの女を離すな」
 タデウシは頷いた。
「わかった。それならば、わたしは、きみたちの婚約を祝福するよ」マリアーンはほほえみを浮かべた。「かの女を妹として認めよう。その代わり、幸せになれよ」
 タデウシの顔がぱっと輝いた。
「クリモヴィッチ夫妻が心から祝福したくなるような、そんな家庭を作るんだぞ。きみには、まだまだかの女にふさわしい愛情が足りないようだからな」マリアーンが言った。「彼らが口癖に言っていた言葉を覚えているよな?」
 マレクがちいさな声で言った。「・・・『愛とは、分け与えることだ。一つのものを半分ずつ分かち合う。そうすると、それは半分ではなく、二倍以上の価値を持つものとなる』」
 ユーリアは涙ぐんで頷いた。それは、かの女の父親のクリモヴィッチ氏の好きな言葉だった。
「おまえは、本当にけちなやつだ」マレクはそう締めくくった。彼の目にも涙が浮かんでいた。「あのクリーシャが、おまえみたいにけちなやつを好きになるなんて、今でも信じられないよ」
 タデウシはうなだれた。
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