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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第100章

第1841回

「マレクだけじゃないぞ」マリアーンは弾き終わるなり、イスから体を動かし、皆の方を見ながら言った。「たぶん、ここの男の子たちは、クリモヴィッチ夫人を理想の女性と思って育ったはずだ、多かれ少なかれ」
 ルドヴィークは目を閉じた。
「そして、金髪で青い目をした少女にあこがれを抱く・・・」マリアーンはそう言うと、タデウシの方を見た。「きみの婚約者も、どこかクリモヴィッチ夫人を思わせる。何か楽器が得意な、きれいな青い目をした女性・・・。やっぱり、きみも一応マザコンだったんだ」
 タデウシは抗議したいような表情で口を開きかけた。
「いや、きみの理想の女性像は、クリモヴィッチ夫人に会う前から決まっていたんだったよね」マリアーンは懐かしそうに言った。「外見の特徴が、たまたまクリモヴィッチ夫人にそっくりだっただけだ。きみは、ずっとその女性にあこがれていた」
 タデウシはふうっと息を吐いた。そして、口を閉じた。
「もう、時効だよな」マリアーンはそう言って立ち上がった。「実は、わたしの初恋の女性も、金髪で青い目をしていた」
 ルドヴィークをのぞく全員が驚いたように彼を見つめた。彼だけは、マリアーンがこれからどんなことを話すのか知っていた。マリアーンの相談役は、年上の彼だけだったからだ。彼は、その話をタデウシには聞かせたくないと思い、マリアーンの話を止めようと目で合図を送ったが、マリアーンは気づかなかった。
「かの女と初めて会ったのは、ある演奏会のリハーサルの時のことだったようだ。そのときのことは、わたしもよくは覚えていない。ただ、再会したのも同じホールでのことだった。そのとき、わたしたちは、ベートーヴェンのチェロソナタを演奏した。わたしが記憶する、かの女との最初の共演だった」マリアーンはゆっくりと話し始めた。
「演奏会でか? いや、そんな演奏会の記憶はないが?」タデウシが言った。少年時代、二人は一緒にいることが多かったから、タデウシは彼のことならどんなことでもよく知っていると思っていた。だが、この話は初耳だった。
「もちろん、そんな演奏会はなかった」マリアーンが言った。「かの女はチェリストでさえなかった。ただ、ある作曲家の女性が、かの女のチェロの腕前がすごいと話したのを聞いて、その演奏を一度聞いてみたいと思っただけだ。チェロは、その場にいたオーケストラのチェリストが貸してくれた。とっても素直な演奏をする女性だった。そう言ったら、誰と比較しているのと聞かれたので、ユーリの話をしたんだ」
 ルドヴィークは驚いて目を開けた。その話は初耳だった。ユーリアも驚いたようにマリアーンを見た。
「話を聞くと、かの女は、ユーリに会ってみたいと言ってくれた。わたしが思い出話をしただけで、かの女はユーリのことをわかってくれたみたいだった。そんな姉が欲しいと思っているのは間違いなかった・・・。そのとき、わたしは、どういうわけかかの女とユーリがどこか似ていると思った。姿形だけではなく、それ以上の共通点がありそうだと思った。たぶん、そのときだろうな、かの女が好きだと悟ったのは」マリアーンはそう言うと、口を閉じた。
 マレクはうっとりとして話に聞き入っていた。
 ルドヴィークは少しだけむっとした顔になった。「おいおい、それじゃ、きみが昔からユーリに夢中だった、というようにしか聞こえないぞ」
「わたしにそんな過去はなかったことは、きみ自身が一番よく知っているはずだろうに?」マリアーンはそう言うと、少しだけ声を潜めた。「・・・きみには悪いが、ユーリはわたしの好みの女性ではない」
「まあ」ユーリアはちいさな声で言った。しかし、誰もかの女の方を見ていなかった。
 ルドヴィークはちょっと間を置いて、ちいさな声で笑った。「・・・うん、よく知ってるよ」
 マリアーンはにやりとして頷いた。
 少しだけ間があった。
 沈黙を破るかのように、タデウシが口を開いた。
「わたしがいないところで、そんな話があったなんて知らなかった。昔から、たいてい二人一緒だったのに、そんな場面には全く記憶がない。ユーリの話をしたのなら、わたしと会う前の話だとは思えない。だとすると、それは、いつの話で、どうしてわたしがそこにいなかったんだろう? まさか、夢の中の話だ、なんてオチじゃないよな?」
 マリアーンはうっとりとしたような顔をした。
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