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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第101章

第1853回

 頷いたクルピンスキーに、シャルロットは言った。「意外でした。かの女の<ポーランド人の夫>、というのがあなただったなんて・・・」
「そんなに意外かな?」クルピンスキーは苦笑した。
 シャルロットは答えた。「ええ。でも、少し考えればわかったはずです。かの女の知り合いに、ポーランド人がそれほどいたとは思えませんから。まして、何年もの間想い続けるとしたら、その男性は、よほど身近にいたはずですもの。かの女にとって、一番近くにいたポーランド人男性はあなたのはずです。でも、かの女とあなたを結びつけようとは、一度も思いませんでした。ブリューノから聞いた話でも・・・」
「ブリューノ?」クルピンスキーはイスから転げ落ちそうなほど驚いた。「・・・きみは、彼をファースト=ネームで呼んでいるのか? 彼はきみの主治医だろう? あの彼が、よくそんなことを許したものだ」
 シャルロットの顔に少し赤みが差した。
「今の彼は、わたしの主治医ではなく、わたしの古くからの友人だと思ってください」
 マルチン神父は考え込むような表情で口をはさんだ。「・・・少なくても、その男性はあなたに好意を抱いているようですね。もしかすると、恋心も」
 シャルロットは真っ赤になった。一方、クルピンスキーは、今にも目が飛び出てきそうなほど目を見開いていた。
あのブリューノが、恋心だと? 自分の娘ほどの年齢の女性に?」
 そう言って、彼は首を振った。「ありえない」
 フリーデマンがシャルロットに声をかけた。
「それで、ブリューノ医師は、どんな話をしたのか聞いてもいいかな?」
 シャルロットはまじめな表情を作ろうとしながら言った。「彼が話したのは、レクシーさんも、初恋の男性のことをずっと想い続けていて・・・」
?」クルピンスキーが鋭い口調で聞き返した。「なぜ、<>なんだ? まさか、ブリューノもそうだとでも?」
「そんなに意外なんですか?」マルチン神父が訊ねた。
「あいつの恋人は、勉強だと思っていた。彼自身、口癖のように言っていたものだ。『わたしは、学問と結婚したんです』とね」
 シャルロットも頷いた。「ええ、彼は口癖のようにそう言っていました。わたしも、長い間そうだと思っていました。彼は厳しいお目付役で、わたしにとって厳しい父親役でした。それでも、彼が進んでその役目を買って出た理由を聞いたとき、わたしは、彼の本当の優しさを知りました。そのときから、わたしたちの本当の友情がスタートしたのです。わたしは彼を心から尊敬しています。彼は、戦争で視力を永遠に失いましたが、今の彼は、多くの人たちに愛されて、精神的に満たされた生活を送っていると信じています。いとこが代筆してくれる彼の手紙を読むと、彼がいかに充実した研究生活を送っているかわかります」
 クルピンスキーは目を丸くした。
「彼の愛情の対象は、彼の周りの人すべてに及んでいるようです。彼らは、ファルロー弁護士のご遺族---息子さんと妹さんと暮らしているそうですが、あるとき、研究所員の誰かがレクシーさんに『どうして結婚されないんですか?』と訊ねたそうです。そのとき、かの女はこう答えたそうです。『わたしは、あるポーランド人男性と結婚しているんです。彼の所に行かないのは、まだそのときが来ないからです』と。それ以来、かの女に『なぜ結婚しないの?』と聞く人は皆無になり、かの女を<マドモワゼル>と呼ぶ人はいなくなったそうです」シャルロットはそう言って言葉を切った。「それで、わたしはブリューノに訊ねてみました。かの女が既婚者だというのは本当なのか、と。彼は答えました。『かの女は、ちいさい頃からずっと、あるポーランド人男性に夢中になっていた。彼らが結婚したということは知らなかったが、かの女がそう言うのなら、少なくてもその男性とは、結婚を含む何らかの約束を交わしたのは間違いないだろう。なぜ彼が迎えに来ないのかはわからないが、なぜかの女がポーランドに行こうとしないかはわかるよ。かの女は、甥のアンリのことが心配なんだ。アンリがこっちで新しい家庭を作って独立できれば、かの女も安心して彼の所に行けるのだがね』」
 シャルロットは、疲れたように小さくため息をついた。「ブリューノは、わざと<ポーランド人の恋人>の名前を言わなかったんだわ。わたしが、その人のことをよく知っているから・・・。でも、もし、知っていたら、わたしは、その男性がポーランドで立派になって、活躍していることを教えてあげられたのに・・・」
 
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