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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第101章

第1863回

「きみのことが好きだった。ちいさい頃からずっと大好きだった」フリーデマンは優しく言った。「いつか、きみと結婚したいとずっと思っていた。いや、きみ以外の女性と結婚するつもりはなかった。11歳の時、初めてきみに会って以来、ずっとそう思っていた」
 シャルロットは彼から視線を外した。
「その気持ちが、妹に対する兄のものではなく、愛だと言うことに気がついたのは、それからまもなくのことだったと思う。きみたちは絶えず誰かに命を狙われていた。もし、自分の気持ちを告白する前にきみが亡くなってしまったら・・・そう思うといてもたってもいられなかった。それなのに、わたしはきみのそばを離れた。何も気がついていないきみのそばにいるのに耐えられなくなったからだ。だが、離れてみて気がついた。きみのそばを離れたのは間違いだった。だから、もうきみから離れない。そう思って帰国したのに・・・」彼の言葉が一瞬つまった。「だが、きみは去って行った。きみの足が治るためなら仕方がないと自分に言い聞かせた。にもかかわらず、それが別離の始まりだった。記憶を取り戻したきみには婚約者がいて、しかも、わたしなどにはとうていかなわないような相手だった。わたしは、きみを諦めるために、いろいろなことをした。結局、どれも無駄なことだったが・・・」
 フリーデマンはそう言うと、自嘲気味に笑った。
「やがて、きみが遠い地で亡くなったと知った。わたしは、自暴自棄の生活を送った。そんなとき、天使が突然現れた。その天使は、わたしの理想の女性にあまりにも似すぎていた。わたしは、きみだとは知らずにその天使に夢中になった。その結果、わたしは天使の羽をむしり取り、天使はわたしの元を去って行った。きみは理想の女性だった。きみ以上の女性はこの世に存在しない。それがわかっていて、わたしにはきみを手に入れることはできない。本当なら、妻と呼びたい。きみの子どもたちの父親と呼ばれたい。だが、きみの気持ちがどうやってもわたしのほうに向かないのならば仕方がない。だが、きみの愛が手に入らないからと言って、きみのすべてを諦めるのは、わたしにはどうやっても無理なんだ。愛情がダメなら、せめて友情だけでも欲しい。100かゼロか、ではなく、100が無理でも、せめて30くらいは手に入れたい。わたしは、きみに見捨てられたら、どうやって生きていけばいいかわからない。昔のわたしに免じて、せめて友達と呼ばせて欲しい。それが許されるのなら、なんでも言うことを聞くよ。そばに寄るなと言われたら、一メートル以上そばには近づかない。愛をささやいてはいけないというのなら、口が裂けても愛しているとは言わない。だから、友達の一人として、ずっとそばにいさせてくれ。なっ? 友達ならいいだろう?」
 シャルロットは《困った人ね》と言わんばかりの表情をした。
「わたしは、きみから愛情を受けようとは望まない。だが、友情まで失うことはできないんだ。どんな形であれ、きみのそばにいたい。望むのはそれだけだ」
 そう言うと、彼はシャルロットの足下にひざまずいた。
 そのとき、聖堂のドアが重い音を響かせて開いた。
 シャルロットとフリーデマンは、明かりが漏れる扉の方に視線を向けた。
 そこに立っていたのは、タデウシ=ボレスワフスキーだった。彼はしばらくの間ぼう然として二人を見つめていたが、早足で二人の方に近づいた。
「クリーシャ」タデウシは淡々とした表情で声をかけた。「ユリアンスキーさんに話を聞いた。けがの具合はどう?」
 そう言いながら、彼はフリーデマンに鋭い視線を向けた。しかし、彼はフリーデマンに対しては、挨拶の言葉一つかけなかった。
「あす、精密検査を受けるように言われたわ。かなり痛いけど、もう大丈夫」シャルロットは答えた。
 タデウシは、まだ緊張を解かなかった。
「痛みがあるから、頭蓋骨にひびが入っているかもしれないんですって。そのほかには、異常はないそうよ」シャルロットはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。「迎えに来てくれたのね、ありがとう」
 タデウシは、フリーデマンをにらみつけてからシャルロットの手を取った。
「何も心配いらないわ。それに」シャルロットは言った。「・・・彼は、わたしにプロポーズしたわけでもないのよ。わたしたちは、仲直りをしただけ。・・・ゆっくり歩いてちょうだい。まだ傷が痛むから」
 そう言うと、シャルロットはフリーデマンに軽く手を振った。
 タデウシは、手を振ろうとしたフリーデマンに冷たい視線を送ってから、ゆっくりと歩き出した。
 フリーデマンは黙って二人の後ろ姿を見送った。今の彼には、そうすることしかできなかったから。
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