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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第102章

第1867回

 一方、双子たちは、二人とも両親譲りのまっすぐなブロンドの髪だった。黒髪の少年とは別の意味で、その辺には滅多にいないくらい美しい少年たちだった。ただ、彼らはブロンドの髪で青い目、という自分たちの容姿を「月並み」だと思っていた。クラスにいる男の子の大半がブロンドの髪で青い目だったからだ。ちいさい頃から家庭教師をつけられ、男子校に入学した彼らは、自分たちが女の子からどんな風に見られるかを考えたことはなかった。女の子たちと接する機会がほとんどなかったからだ。だから、彼らは自分たちを平凡な容姿の人間だと思い込んでいた。鏡に映った自分のような兄弟と一緒にいたから、ますます自分たちは平凡だと思っていた。彼らは、自分たちを<美少年>と呼ぶクラスメートたちを軽蔑さえしていた。自分たちがそうだとは思っていなかったから。そんな彼らにとっては、黒い髪の少年は、黒い髪というだけで非凡だったのだ。しかも、整った顔つきをしている。こんな少年は、クラスには一人もいなかった。
 ヴィクトールは少年に近づいた。そして、彼が生まれながらに持っている---ほかの人から尊大だと注意されることが多い---態度で、彼に門番と同じことを訊ねた。
「・・・我が家に何か用でも?」
 少年は、ようやくかぶりを振った。彼は、目の前のブロンドの髪の少年をまぶしそうに見つめ、赤くなった。もっとも、その前から彼の顔は寒さで赤らんではいたが。
「それでは、不審者か?」ヴィクトールはほんの少し眉を上げた。
「ぼくは---わたしは、決して怪しい人間ではありません。そう言っても、信用してもらえるかどうかわかりませんが」少年はゆっくりと口を開いた。かなりドイツ語なまりの強いポーランド語だった。
「ドイツ語で話したまえ」ヴィクトールは、ドイツ語で促した。
「わたしの名前は、ジークフリート=フィッシャーです。近頃、おじさまの挙動がおかしいと思って、あとをつけたのですが・・・」
「おじさま?」ヴィクトールは首をひねった。「・・・あの、<匿名の紳士>のことかしら?」
「匿名の紳士?」ジークフリートも同じように首を傾けた。かなり驚いたような表情になったので、双子は顔を見合わせた。
「・・・自己紹介が遅れてすまない」ヴィクトールは堅い口調を崩さずに言った。「わたしの名前は、ヴィクトール=コヴァルスキー。彼は兄の・・・」
「・・・アレクサンドルさん?」ジークフリートが口をはさんだ。
「なぜ、それを?」アレクサンドルは驚いて訊ねた。
 ジークフリートの顔がぱっと輝いた。「やっぱり、ここはコヴァルスカ夫人のお宅なんですね。よかった」
「間違いなく、ここのあるじはコヴァルスカ夫人だが、あなたは、かの女とどこかで・・・?」
 ジークフリートは懐かしそうな表情で答えた。「ええ、ベルリンで。・・・コヴァルスカ夫人がおっしゃったとおりだ。かの女には双子の息子さんたちがいて、アレクサンドルとヴィクトールという名前だと・・・。二人をおいてベルリンまで来てしまって、とても寂しかったと。あなたたちは、想像通りの人たちだ。コヴァルスカ夫人にそっくりな優しい目をしていて、かの女のように賢そうな表情をしている。おまけに、かの女を男性にしたように、すごくハンサムだ・・・」
 それを聞いて、二人は視線を交わし、同じように不快な表情になった。
 ジークフリートはそれには気がつかなかった。
「コヴァルスカ夫人は、わたしのことを何も話してはくださらなかったんですね」彼は少し気落ちしたように言った。「もしかすると、もうわたしのことなんか忘れてしまったのかも・・・」
 その表情を見ているうちに、ヴィクトールは思わず口を出した。
「母は、一度でも声をかけた人間を忘れない」ヴィクトールが言った。「あなたのことを母から何も聞いていなくて申し訳ないが、母はきっとあなたのことを気にかけていたはずだ。ベルリンで会ったというのなら、当時あなたはほんの子どもだったはずで、母のことだから、きっとあなたをかわいがっていたんじゃないかしら」
 ジークフリートの目に涙がたまった。
「失礼だが、あなたのお母さまはすでに・・・お亡くなりになったのかしら?」ヴィクトールは優しく訊ねた。
「ええ、父もです」ジークフリートは答えた。
 その答えは、双子にとって想像外のものだった。どう見ても、ジークフリートの父親はあの匿名の紳士にしか思えなかったからだ。
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