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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第102章

第1871回

「あまり暖かくないかもしれないけど、ぬれたものよりはいいと思って。よかったら使ってちょうだい」
 ジークフリートはマフラーと手袋を受け取った。暖炉で乾かそうと思っていたマフラーと手袋は、彼の膝の上に載っていた。なぜジークフリートが手袋を外したままだったのか、という事情を知らなかったシャルロットは、彼が手袋をしていなかったのは、マフラーと同様に雪で濡れたためだと思い込んだ。
「ぬれてしまった方は、このバッグの中に入れてちょうだい。おうちでゆっくり乾かしてね。このマフラーと手袋は、返さなくてもいいわ。手作りであまりいいできばえじゃなかったから、気に入らなかったら処分してちょうだいね」
 ジークフリートは、マフラーと手袋を大事そうに握りしめた。「気に入らないだなんて、とんでもない」
 シャルロットは、マフラーを彼の手からとり、彼の首にかけた。少し長めだったので、二重に巻いた。おそろいの毛糸で作ったミトンの方は、ジークフリートが自分ではめた。
「さあ、出かけましょう。ボレスワフスキーさんが入院されたので、今晩は戻ってこないと思うの。出かける前にみんなにも挨拶していきたかったんだけど、急がなくてはならないの。ジュスティー、みんなのこと、お願いね」シャルロットはヴィクトールを軽く抱擁しながらそう言い、ジークフリートをせかすように部屋を出た。
 ユリアンスキー自身が運転席に座っていた。シャルロットはジークフリートを先に後部座席に座らせ、その隣に座った。
「まず、フォン=ブリュンスウィック家に向かってちょうだい」シャルロットがそう言いかけると、ジークフリートは遮った。
「まず、病院に先に行ってください。ヴィクトール君に聞きました。けがをされたのは、あなたの大切な男性だと」
 シャルロットのほおが少し赤らんだ。
「安否を確認するのが先でしょう、フラウ?」ジークフリートが続けた。
「・・・ありがとう、フリーディ。そうさせていただくわ」シャルロットが答えた。そして、ユリアンスキーに言った。「病院に向かってちょうだい」
 ユリアンスキーは無言で頷き、車を走らせた。
 病院の入り口は、人でごった返していた。シャルロットが見たところ、ほとんどが新聞記者のように思えた。正面から入るのは人目につきすぎるような気がしたが、シャルロットはそうするしかないと思った。ただ、新聞記者たちの意識が向かないように、お見舞いにやってきた普通の親子連れを装うことに決めた。そこで、いったん病院の駐車場を出て、ちいさな花束を用意して戻ってきて、ユリアンスキーにその花束を持たせて先に歩かせ、自分はジークフリートの手を引いて親子連れの雰囲気を出した。こうして、3人は、病院の入り口を突破した。
 案内係はいないか、と辺りを見回したとき、シャルロットの目にルドヴィーク=レーベンシュタインの姿が入った。ほとんど同時にルドヴィークも3人に気づいたようだった。ルドヴィークは早足で3人に近づくと、黙ってシャルロットの手を引いて人影がない非常階段の方へ案内した。
「・・・すまない。大事になってしまったので、目立たないで話をする場所を確保したかった」ルドヴィークが言った。
「それで、現在の状況は?」シャルロットが震える声で訊ねた。
「マリアーンとタデックは、まだ手術室にいる。ユーリとマレクは手術室の前にいる。わたしは、きみが到着するのを待っていたんだ。これから、そこに案内するよ。話は、歩きながらだ」ルドヴィークが答えた。「タデックは、マリアーンをホテルに送っていく途中だったんだ。運転していたのはタデックだ。反対車線から、一台の車が彼の車に突っ込んできた。運転手の話だと、飛び出してきた犬か猫を避けようとしたのだというのだが、目撃者は、道路には動物はいなかったと証言している。とにかく、反対車線から車が来たので、タデックはぶつからないように急ブレーキをかけた。そこに、後続車両が衝突した。そのはずみで、車は反対車線の車と衝突した。つまり、タデックたちは二台の車にサンドウィッチにされてしまったというわけだ。即死した人間はいない。反対車線の車の運転手も、後続車の運転手も、軽いけがだけですんだ。彼らは、それぞれ別の病室に入院中だ。ひどかったのは、タデックとマリアーンで、二人は手術室に運び込まれ、もうすぐ二時間になる。どんな状態なのか、まだ説明がないんだ」
 話しているうちに、二階の手術室の前に到着した。シャルロットたちの姿を見ると、ユーリアは早足でシャルロットに近づき、泣きながら抱きついた。シャルロットが知る限り、ユーリアがそんな風に感情をむき出しにしたのを見たのは初めてだった。
「・・・ひどかったのよ、ふたりとも、ひどいけがで・・・」ユーリアは、子どものような口調でそう言って、わっと泣き出した。
 シャルロットは、ジークフリートの手を離し、ユーリアを抱きしめた。
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