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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第103章

第1884回

 シャルロットの話には、省略箇所がたくさんあった。しかし、今は、話の正確さではなく、本質を伝えるべきだと思ったので、かの女は詳しく説明するべき箇所とそうでないところを選別しながらしゃべった。
「遺言状が公開されたときから、彼の戦うべき相手はわたしに変わった。彼は、伯父の遺産をすべて自分のものにしようとしたの。でも、屋敷の人間たちは、彼を新しい主人とは見なさなかった。彼がいくら言い聞かせても、彼らにとって新しい主人はわたしだった。やがて、彼は譲歩せざるを得なくなったの。彼が選んだのは、名前だった。わたしにチャルトルィスカという名前と、公爵という地位を譲らせることで、わたしは残りの公爵の遺産を相続したの。だけど、戦争になって、公爵が残してくれた遺産のほとんどが消えてしまったけど。わたしに残されたのは、彼の残してくれた土地と建物だけになってしまった。その建物の1つを、今、レーベンシュタイン夫妻が管理してくれているの」
 レーベンシュタイン夫妻はうなずいた。
「一方、新しい公爵になったアレクサンデル=チャルトルィスキーのほうだけど」シャルロットはいったん言葉を切り、「この後、彼のことを公爵と呼ぶわね」と付け加えた。「お金持ちだった彼が、地位を手に入れた。そうなると、次々と彼の周りにはお金が集まった。彼は、お金があっても貴族ではなかった一人の女性と再婚した。そして、二人の間に生まれた子供に、ポニァトフスキー銀行を相続させ、女性の父親を後見人としたの。その女性の父親の名前はカロル=ルジツキー。ルジツキー氏も、娘の結婚により、強力な姻戚を得て、事業を拡大させたの。戦争になり、さらに財産が増え、今では<財閥>と呼ばれるほどの財産家になったの。公爵とルジツキー氏は、さらに事業を拡大させ、もはや今のポーランドには彼らを恐れない人物はいないわ。彼が指を動かしただけで、たくさんのお金が右から左へと流れていく、と言われるくらい、彼らはたくさんの財産を持っているわ」
 ルドヴィークは首をひねった。
「それだけの大物なのに、どうしてきみが邪魔だったのだろう?」
 シャルロットはゆっくり首を振った。「公爵に直接聞いてみなければわからないわ。でも、ルジツキー氏の話だと、公爵にとっては、シャルロット=チャルトルィスカを名乗っていた女性が怖かったのだとか。伯父が残してくれた遺産を手にするのをあきらめさせるほど抵抗したかつての使用人たちが忠誠心を捧げたわずか10歳の女の子を、彼はずっと恐れていたそうよ。もし、その子がポーランドに戻ってきたら、再び自分の地位が脅かされるようなことになるかもしれない。だから、絶対にポーランドに帰ってこないように、腹心の部下たちを使って見はらせていた。ときどき、小さな事故のようなものを起こしながらね。そのために、わたしは何人かの知り合いたちに怖い思いをさせてしまったし、一人はわたしのためになくなった・・・」シャルロットは、マルゴ=レヴィンのことを思い出して、ぞっとした表情を浮かべた。「わたしは、しばらくポーランドに帰るつもりはなかった。でも、夫が亡くなって状況が変わってしまったの。夫はポーランド人だった。彼は、わたしにポーランドに帰るように言い残したの」
 そう言ってため息をついた後、シャルロットははじめて本音を漏らした。
「もし、わたしとヴィトールドの結婚生活がもっと長かったら・・・わたしたちがもっといい関係を築いていたら・・・わたしたちの結婚は違った形で終了できていたのかもしれなかったのに。わたしたちは、ある意味、追い詰められて生きているようなものだった。彼は彼なりの形でわたしを愛してくれていたのだと思う。だけど、わたしは・・・自由になりたかった。女の子を出産できたら、わたしは・・・今度は別の人生をスタートさせたかったのかもしれない。わたしは、結婚して、何もかも制限された生活に入った。結婚するまでは、好きな音楽を演奏したり、好きな小説を書いたりできた。でも、ザレスカ夫人は、まず跡継ぎを生まなければならなかった。結婚してすぐに、男の子と女の子を産むことで、わたしの頭はいっぱいになってしまった。もし、彼の存命中にアンジェリークが生まれていたら、もっと違った結婚生活になっただろうと思うわ」
 ユーリアは驚いたような顔でシャルロットを見つめた。
「とにかく、あのときのわたしは、夫が亡くなった後、すぐに誰かと再婚しようという気持ちにはなれなかった。いいえ、誰とも再婚したくないと思っていた、というほうが正解だったかも。だけど、ヴィトールドは、わたしをライと結婚させたいと思っていたの---いいえ、今ならわかる。彼は、わたしをコルネリウスと結婚させたくなかったのよ」シャルロットはそう言い切った。
「そうとは限らないのではないかしら? だって、彼は・・・」ユーリアはそう言いかけ、何かを考えたように黙った。
「コルネリウス?」マリアーンも口を開いた。
「コルネリウス=ド=ヴェルクルーズ。わたしのかつてのフィアンセだった男性よ。わたしは幼い頃から彼を愛していたし、彼の方もそうだったと思っていた・・・でも、わたしたちは結局結婚しなかったの」シャルロットが言った。
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