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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第103章

第1885回

 そして、一息ついてこう締めくくった。「だけど、彼の話は、この話とは関係ないから、今は省略するわね」
 マリアーンは不満そうな顔をしたが、うなずいて見せた。
「・・・どこまで話したかしら。そうだわ、ライと一緒にポーランドに戻ってきたところまでよね」シャルロットは小さくため息をついた。「公爵は、はじめのうち、わたしがポーランドにいることに気がつかなかったの。ルジツキー氏の話だと、わたしがベルリンのコンサートホールのステージに立った、というニュースが彼のお気に召さなかったみたい。公爵は、わたしが<クラコヴィアクのブローニャ>だと気がついたわけではなく、そっくりな人間だとしか思わなかったようだわ。一応は、わたしという人間の背景は調べたみたい。そして、わたしを殺そうとしたあの火事の関係者の一人だと知ったそうよ。ただ、わたしを連れ帰ったライモンド=コヴァルスキーが弁護士だったと言うこともあって、うかつには手を出せないと思ったみたいなの。それで、わたしの子どもを使って脅しをかけようとしたそうよ。まだ、狙っているというサインを出そうとするため、息子の前に車で飛び出したそうよ。でも、その場に居合わせたライモンドが、子どもを助けようとして・・・」シャルロットはそう言って涙をこぼした。
「・・・二人とも助からなかった・・・?」マリアーンはそう訊ねた。
「ええ」シャルロットはポケットからハンカチを出して涙をふいた。「その事故の後、わたしは郊外の家に移り住み、必要以上の外出を避けるようにしたの。外出する気分になれなかった、という方が正解だったけど。そこで、わたしは、子どもたちの世話をしながら、時々訪ねてきてくれるお友達とすごしていたの。そこへ、3年間の外国公演を終えたタデックが帰ってきて、プロポーズしてくれたの。それで、わたしもワルシャワへ戻ってきたの。そして、タデックと婚約発表をする予定だった。公爵は、わたしが再び表舞台にでようとしているのが不愉快だったの。それで、もう一度脅そうとして、あなたたちの車を襲ったそうよ」
「ちょっと待って」マリアーンが言った。「公爵が<クラコヴィアクのブローニャ>を狙うのはわかった。だが、どうして、<クラコヴィアクのブローニャ>かどうかはっきりしないきみを脅す必要があるんだ? そこがどうしてもわからない」
「幽霊、とルジツキー氏は言ったわ。公爵にとって、わたしが誰であっても関係ないのよ。とにかく、<クラコヴィアクのブローニャ>に似た女性が気に入らないの。その女性が、自分のそばをうろついているのがお気に召さないの。だから、今度の事故を起こしたのよ。そして、ルジツキー氏は、わたしがタデックと別れてフランスなりスイスに行って欲しいと言ったの。そのためなら、小切手にどんな多額の金額を書き入れてもかまわない、って」そう言うと、シャルロットは肩をすくめた。「ただし、小切手に書けるだけのゼロの数にして欲しい、と言ったけど」
 3人には、それがジョークには聞こえなかったらしい。
「それで? タデックは、金額を書き入れたのか?」
「左手で字を書く練習をしてから、と答えたわ」シャルロットは答えた。「そして、わたしに、これ以上犠牲者が出る前に子どもたちを連れてポーランドから出て行けと言ったの。ユーリは、彼は本気じゃないといったわ。でも・・・」
「もちろん、彼が本気なはずはないでしょう?」ユーリアが言った。そして、シャルロットの答えを待った。
 シャルロットは、もう一度目をハンカチでふいてから、そのハンカチを持ったまま手を膝の上に置いた。
「一晩考えたの。どうしてあのとき、『わたしと一緒に行こうって言って』と、はっきりとした言葉で彼に言わなかったのかと」シャルロットはゆっくりと話し出した。「ルジツキー氏がそこにいたから? いいえ、そうじゃない。誰がその場にいても、いなくても結果は同じだった。彼にその言葉を言わなかったのは、心の底でそう望んでいなかったからかもしれないと・・・」
「クリーシャ!」ユーリアの表情に怒りが混じった。かの女は、シャルロットのそばにかけより、肩を強く揺さぶった。「正気を取り戻してちょうだい! 今のあなたはおかしいわ!」
 シャルロットはうなだれて、ユーリアにされるまま揺さぶられていた。
「もちろん、望んでいるはずよ! 二人ともそう望んでいるはずよ! だって、彼はあんなに・・・」
「やめるんだ、ユーリ」ルドヴィークはユーリアの肩を後ろから抱いた。二人とも涙を流していた。ユーリアはくるりと振り返り、ルドヴィークの胸に顔を埋めた。
 マリアーンは、ゆっくりと手を伸ばした。それでも、その手はシャルロットには届かなかったが。
「タデックは、間違いなくわたしを愛してくれていたわ」シャルロットが言った。「少なくても、11月のあの日までは。あの日、彼は自分のプロポーズをなかったものにして欲しいと言ったわね。それから、彼は、その言葉を実行しようとしていたわ。あの日以来、彼に会ったのは2度しかない。もしかすると、彼は本気で別れようと思っているのかもしれない。それならば・・・」
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