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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第103章

第1886回

 ユーリアは首だけシャルロットの方を向いた。
「今、急いで結論を出さないで。この状況で、冷静な判断ができるとは思えないわ」
 シャルロットはうなずいた。「そのとおりね。もう少し考えさせてちょうだい」
 マリアーンが言った。
「その考慮、というのに、わたしの存在も含めて欲しい。わたしには、もう、どんな女性を守ることもできないかもしれない。でも、きみを愛する気持ちだけは誰にも負けないつもりだ」
 シャルロットは、マリアーンの手を取った。
「優先権は、タデックにあるわ。彼がいらないと言わない限り、あなたの出番は来ないわ。かりに、彼がいらないと言っても、わたしにはあなたを愛せるかどうかわからないわ」
「そばにいてくれるだけでいい」マリアーンは指を絡めながらいった。「それ以上のことは望まない。ただ、きみを愛することはやめられない。たとえ、一方通行でも」
「そこまでにしておけよ。クリーシャを苦しめたくないのならな」ルドヴィークが口をはさんだ。そして、ベッドのそばによると、からめられた二人の指を一本ずつはずした。
 マリアーンはため息をつき、手を少し引っ込めた。シャルロットの方は、すかさずその手を膝に戻した。
「愛しているんだ」マリアーンはそうつぶやき、目を閉じた。
 そのとき、看護師が部屋に入ってきた。レーベンシュタイン夫妻とシャルロットは部屋から出た。
 廊下に出たところで、シャルロットはユーリアに言った。
「ずっと気になっていたことがあるの。今それを聞くべき時ではないとは思うんだけど、聞いておきたいの」
 ユーリアは頭を振った。
「あのときの続きを聞かせて」シャルロットが言った。「ブレンデル夫妻の新居披露パーティの時、あなたが言いかけた言葉。コルネリウスは、あなたに何と話したのか教えてちょうだい」
 ユーリアはきょとんとした。「コルネリウスさんの話?」
 シャルロットは真剣な顔になった。
「あなたが、ミュラーユリュードでコルネリウスに会ったという話をしてくれたわよね。その話は、フリーデマンさんの到着で遮られてしまった。彼が到着する直前、あなたは彼に夢のことを訊ねたと言ったわ」それでも、<思い出せない>という表情を浮かべていたユーリアに、こう続けた。「あなたは彼に訊ねたそうね。『もし、奇跡が起きて、あなたの婚約者が再びあなたの目の前に現れたら、あなたはどうしたいですか?』と。彼は、唇をゆがめてこう答えたそうね。『まさか、あなたはかの女が生きていると言いたいんじゃないでしょうね? 毎日のように、目が覚めたらかの女がそばにいて《悪い夢を見たのね、ドンニィ》といってほほえみかけてくれる夢を見る。かの女が死んだのが夢で、一緒に暮らしている方が現実だと思うくらいだ。だが、他人にありもしない想像をさせられるのはごめんです。あなたも、そんな拷問をするつもりなんですか? がっかりしましたよ。あなたは、もう少しましな人間だと思っていたのに』。・・・そのあと、彼は何と言ったのか教えてちょうだい」
 ユーリアは少しの間黙っていた。しばらくして、かの女は口を開いた。
「彼は、こう言ったの。『わたしは、奇跡を信じない。もしも、この世に奇跡があるのなら、もうとっくに起こっていてもいいはずだ。キリストだって三日目に復活して、マグダラのマリアの前に姿を現したんだぞ。確かに、わたしは模範的なキリスト教徒ではないが、30年後に死んでから再会、というほど、わたしは罰当たりな生き方はしてこなかったはずだ』」
 それを聞いて、ルドヴィークは笑い出した。
「『この世には、時というものがある。時が満ちたとき、わたしの前には新しい人生が広がった。その人生には、つねにわたしの愛するひとがそばにいてくれる。そう、かの女は、いつでもわたしと一緒にいる。今でも、いつまでも。あなたには見えないかもしれない。だが、かの女はここにいてくれるんだ。わたしはそれを信じている』」ユーリアはそう言って涙ぐんだ。「『そして、いつの日か、かの女の姿は誰の目にも見えるようになるんだ。二人並んで歩いている姿を見て、人々はこう言うんだ。<二つの川がようやく合流点に達した>とね。もしかして、あなたはご存じなのではないかしら、かの女は、生きているということを。そして、いつかわたしの所に戻ってくると言うことを。・・・わたしには、そうとしか思えない。だとしたら・・・』」
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