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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第103章

第1892回

 マウゴジャータは、シャルロットの表情を見て、カジーミェシ氏の<芳しくない>噂話の詳細を端折ることにした。
「父親のカロル=ルジツキーという人は、とても苦労人だったそうよ。だからこそ、ぬくぬくと育ってしまった息子のことが許せなかったんでしょうね」マウゴジャータは続けた。「・・・カロル=ルジツキー氏の半生って、もちろん知っているわよね?」
 シャルロットとギュンターは『知らない』と首を振った。
 マウゴジャータは目を丸くした。
「まあ。話はそこから?」
 そのとき、記者たちの動きが急に活発になった。
「ちょっと失礼」ギュンターはそう言って、人だかりの方に走って行ってしまった。
 シャルロットが記者たちが取り囲んでいる人たちの方を見たとき、ちょうどその囲いの中から大柄な男性たち4人が威圧的な態度で出てきた。彼らに囲まれるようにして無表情のルジツキー氏が、13~4歳くらいの少年の手を引いてあるいていた。彼は、口をきりっと結んだまま、何も言わずに早足で去って行った。最後尾にいた一番太った男性は、振り返って一同をにらみつけた。記者団は、何も言えないまま散り散りになった。
 しばらくして、ギュンターはシャルロットたちのところに戻ってきた。
「残念。何も話を聞くことはできなかった」ギュンターが報告した。「あれは、カロル=ルジツキー氏とお孫さんのブロニスワフさんだそうだ。つまり、ブロニスワフさんの父親がカジーミェシ氏だそうだ」
 ブロニスワフ? シャルロットは、ルジツキー氏の孫の名前を聞いて不思議に思った。確か、ルジツキー氏は、ブロニスワフが弟の名前だと言っていた。カジーミェシ氏は、自分の息子の名前を父親の名ではなく叔父の名前にした。それにしても、なぜ、ブロニスワフなのだ?
 シャルロットの疑問が顔に出ていたようだ。その無言の問いに、マウゴジャータが答えた。
「お孫さんの名前は、カロル=ブロニスワフ=ルジツキーよ。ファーストネームがおじいさまの名前と同じなので、普段はブロニスワフの方を通称にしていると聞いているわ。カロル=ルジツキーでは、学校でも目立ってしょうがないでしょう?」
 シャルロットが納得したように頷くと、マウゴジャータは言った。
「だけど、家族たちは、彼をブローネクではなくカロレックと呼んでいるそうだけどね」
 シャルロットは、こわばった顔をしたまま通り過ぎた少年のことを考えた。クリスティアン=コヴァルスキーと同じくらいの年のはずだが、あの少年は、かの女の息子たちやクリスティアンとはどこか違っているように見えた。おそらく、彼は、子どもらしい子ども時代を送ることができなかった。両親の愛情が足りなかったのか、同世代の子どもたちと遊ぶ経験が少なかったのか、よくわからない。マウゴジャータの言葉通りだとしたら、息子に幻滅した祖父が、孫の教育に全力を注いだ可能性がある。もしかすると、彼は両親から引き離され、祖父に英才教育を施されているのかもしれない。
 わかった、あの表情は、初めて会ったときのヴィトールドを思い出させるのだ。だから、自分はどうしても、あの少年のことが気になって仕方がないのだ。
「どちらにしても、ルジツキーという姓では目立ちすぎるんじゃないかしら?」シャルロットが言った。
「噂では、彼は、ついこの間まで学校には通っていなかったらしいわ。おじいさまの会社で、何人かの学友と一緒に、超一流の教師たちに教わっていたのだとか。彼も偽名を使っていたし、彼に似た容姿の少年たちを集めたので、教師たちも自分たちが誰を教えていたのか知らなかったそうよ。そこまでして、ルジツキー氏は、優秀な跡継ぎが欲しかったのね」
 そう言うと、マウゴジャータは一息つき、ルジツキー氏の話を始めた。
「もともと、ルジツキー家は貴族の家柄だったの。もう何代も前の話だけど。でも、とっくに没落してしまって、カロル氏の祖父も父親も職業軍人だった。大尉くらいにしか出世できなかったくらいだったから、士官学校へ行った職業軍人としては、たいしたことはなかったみたいね。それで、カロル氏の父親は、息子たちに軍人になることを勧めなかったそうよ。カロル氏の弟のブロニスワフさんは、絵の才能があって、肖像画を描くのを生業としていたそうよ。カロル氏の方は、小学校を卒業した時点で、ある商店に奉公に出たそうよ。でも、そこで、得意先の社長に見込まれて、夜間大学にまで行かせてもらったんですって。そして、お店を一つ任され、それが二つになり三つになり・・・。ところが、彼の主が不渡手形を掴まされてしまって、連鎖倒産の危機に陥ってしまったの。そして、主人は自殺してしまったの。でも、それは、実はライヴァル会社の陰謀で」マウゴジャータの目は輝いていた。「それを知ったカロル氏は、主人の敵討ちをしようと決めたの。巧みに罠を巡らして、そのライヴァル会社を乗っ取ってしまったのよ。その過程で、そのライヴァル会社のライヴァル会社の令嬢と結婚してしまったんだから、なかなかのものでしょう?」
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