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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第103章

第1897回

「お願い、止めないで」シャルロットはモジェレフスキーに言った。
「行く必要はない」モジェレフスキーが言った。「どこの誰かもわからない、あんな子どもの言うことなど、聞く必要はない」
 それでも、シャルロットは抵抗した。
「彼が誰かは知っているし、彼の言うことにも一理あるわ。だから、彼に話しておきたいの---」
「ほっときなさい」モジェレフスキーは冷たい口調でもう一度言った。
 さすがに、シャルロットも、モジェレフスキーの態度が不自然だと気がついた。ジークフリートの態度も極端だが、この人の過保護さも、度を超している。
 シャルロットは抵抗をやめ、モジェレフスキーに言った。
「どこにも行かないから、その手を離して!」
 その毅然とした命令を聞き、モジェレフスキーは思わず手を離し、一歩後退した。
「あの子は、フリーデマンさんの養子なの。名前は、ジークフリート=フィッシャー」シャルロットが言った。そういえば、この場の誰にも彼のことを紹介していなかったはずだと思ったので、あらためて彼の名を皆の前で言った。「わたしたちは、ベルリンで初めて会ったの。彼は、ピアニストであるご両親をまだほんの幼い頃に亡くして、父親の友人であるフリーデマンさんのところにいたの。彼は双子の片割れで、うちの双子の息子たちと同じくらいの年齢だったから、わたしは彼のことも他人とは思えなくて、ベルリンにいた頃はいろいろ話をしたの。そのうちに、彼は、わたしがフリーデマンさんと結婚して欲しいと思うようになって・・・」
 男性3人は、そろって心の中で異議を唱えた。《あの子は、確かに『ぼくはあなたを愛していた』と言った。かの女は、その言葉を聞き逃したのだろうか?》と。
 その前後に発せられた言葉の重みに気を取られすぎていたシャルロットは、またしても少年の愛の告白を聞き流してしまっていた。
「・・・それで、彼は、昨日、あの雪の中、わたしの家を訪ねてくれたの。彼が、『どうしておじさまと結婚したくないんですか?』と聞いてきたので、わたしは『大切に思っている人が病院に入院している』と答えたの。タデックのことをどれだけ大切に思っているかもね。それで、彼は、わたしがフリーデマンさんと結婚するという夢を諦めてくれたようだったんだけど・・・」
 そう言うと、シャルロットは勢いよく顔を上げた。
「やっぱり、彼に話さなくちゃならないわ---」
 マウゴジャータはゆっくり首を横に振った。「今、その思いをはっきり打ち明けるべきなのは、あの子ではなくタデックよ。そして、亡くなられたブラッソンさんよ。彼は、あなたとタデックが結ばれるため、文字通り命を賭けた。その彼にちゃんと説明するのが筋よ。彼にちゃんと自分の思いを伝えられないのだったら、あなたはあの子が言うとおりただの浮気者なのかもしれない」
 ルドヴィークは、シャルロットの肩にぽんと手を置いた。
「・・・そうね、あなたの言うとおりだわ」シャルロットはマウゴジャータに言った。「行きましょう」
 その言葉を聞いて、ルドヴィークとユーリアは軽く頷いた。
 そこに通りかかった若い看護師に、ギュンターが訊ねた。
「遺体安置所はどこかしら?」
 看護師は、ギュンターをさっと上から下まで眺めた。その様子を見て、いかにも新聞記者だという格好をした彼が部外者だと判断されると判断したマウゴジャータが横から口を出した。
「わたしたち、マリアーン=ブラッソンさんに会いたいんです。お見舞いに来たんですが、もう亡くなられてしまったと聞きました。どこに行けば彼に会えるかと思って・・・」
 看護師は、花束を持って立っているマウゴジャータを見た。どこからどう見ても見舞客という様子のかの女を見て、看護師は緊張を解いた。
「遺体安置所は、地下になっています。おそらく、ブラッソンさんの処置も終わっているかと思います。ただ、ご存じの通り」看護師はそう言いながらギュンターを見た。「今、遺族の関係者と証明できない限り、部屋に入るのは難しいかと」
 ルドヴィークが口をはさんだ。「わたしは、彼の兄です。担当してくださったテレジンスキー医師に確認していただけば、すぐにわかると思います」
 看護師は小さく頷いた。「地下室に行って、同じことを話せば、きっと中に入れてもらえると思います」
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