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年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第104章

第1911回

「母上、あなたは、幼い頃、フリーデマンさんを好きではなかったのですか?」
 シャルロットは、突然の質問に面食らった。かの女は目をぱちくりさせ、少し考えてから言った。
「質問に質問で返してごめんなさい。あなたは、マリア=テレージア=レーベンシュタイヌヴナをどう思っているのか教えてちょうだい」
「テレーニャを?」ヴィクトールはきょとんとした。「どうして、ここでテレーニャが出てくるんですか?」
 シャルロットはまじめな顔をした。「わたしも、あなたに同じ答えを返します。なぜそんな質問をするのですか?」
 ヴィクトールはむっとした表情に戻った。
「母上はずるいです。ちゃんと答えてください。それとも、ぼくが子どもだから、答えられないんですか?」
 シャルロットは困ったような表情を浮かべた。
「違うわ。フリーデマンさんの前だから、言いたくなかったのよ」シャルロットはそう言って、フリーデマンの方を見た。「ごめんなさい。ヴィクトールの問いに、正直に答えるわ」
「どうぞお気遣いなく」フリーデマンの顔から、一切の表情が消えた。
「わたしとフリーデマンさんは、お友達だった。この世で一番親しいお友達だった。少なくても、幼い頃のわたしはそう思っていたわ。わたしにとってフリーデマンさんは、ちょうど、あなたにとってのテレーニャみたいな存在だった。あなたは、一度だって恋愛感情を持ってかの女を見たことがないわね。好みのタイプでないのか、それともオーレックがかの女に夢中だからかはわからない。わたしとフリーデマンさんの関係は、正確に言えば、あなたとテレーニャとの関係とは違うの。どちらかといえば、オーレックとテレーニャの関係に近かったの。テレーニャの方はあなたとオーレックを同等に扱っているけど、オーレックの方はかの女に夢中になっている。わたしとフリーデマンさんの関係もそうだったに違いないわ。もっとも、わたしは当時10歳で、フリーデマンさんの気持ちには全く気がついていなかったんだけど」
 フリーデマンは思わず下を向いた。シャルロットが息子の方を向き直ると、ヴィクトールの隣でジークフリートが同じようにしょんぼりしているのが見えた。
「でもね、当時のわたしが幼かったからだ、とは思わないでちょうだい。わたしは、5歳の時に事故で一時記憶を失っていたの。フランスに戻って10歳で記憶を取り戻したとき、目の前に運命の男性がいたの。わたしが物心ついたときからずっと好きだった男性が」シャルロットの口調は優しくなった。「わたしには、生まれたときから婚約者がいたの。そして、物心ついたときにはすでに彼が好きだった。結婚すると言うことがどういうことか知らなかったのに、彼と生涯にわたってずっと一緒にいるということに疑問を持たなかったの。その男性も自分のことが好きだとわかったときには、どんなにうれしかったことか」
 そう言ってシャルロットは恋する少女のような笑みを浮かべた。
「彼とわたしは5年のつきあいだった。そして、わたしとフリーデマンさんも5年のつきあいだった。でも、わたしはフリーデマンさんに対しては、彼に対するような想いを抱いたことは一度もなかったの。残酷なようだけど、それが事実なのよ」
「でも、あなたを幸せにできる男性は、そのフランス人じゃなく、フリッツおじさまです」ジークフリートが口を開いた。
 全員が、ジークフリートに視線を向けた。
「この前、あなたは、おじさまと結婚したくないとおっしゃいましたよね。そもそも、どうしておじさまじゃだめなんですか? おじさまはあなたを愛しているし、あなたは彼と一緒に、これまでの人生で最高の思いをしたとおっしゃいましたよね?」
 ジークフリートの爆弾発言に、シャルロットは思わずむせた。フリーデマンはうっ、というような声を漏らして真っ赤になった。
「それとも、それも嘘だったんですか?」ジークフリートは挑戦するようなまなざしでシャルロットを見つめた。
 シャルロットは思わず目を泳がせた。その問いは、どう考えてもタイミングが悪すぎる。ジークフリートは自分に意地悪を仕掛けているのだ。そう確信したシャルロットは、冷静さを取り戻した。
「あのとき、わたしは、あなたに言ったはずよ。人を愛するというのは---誰かと結婚したいと思うのは、そういうこととは全く別のものだと」シャルロットはさっきまでと同じ口調で言った。「わたしは、今、愛する人の話をしていたの。結婚したいと思っている男性について話をしていたの。わたしを嘘つきかどうか判断するのは、話が全部終わってからにしてちょうだい、フリーディ。話を続けてもいいかしら?」
 司祭もジークフリートを非難するようなまなざしを向けたので、ジークフリートは黙って頷いた。
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