年代記 ~ブログ小説~ 

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「年代記  第三部」
第105章

第1923回

「略式な食事なので、あなたさえよろしければ、アルコールを出すのは控えたいと思うが、いかがかな? それと、今日は寒いので、前菜は温かいものにしている」ルジツキー氏は言った。「どうしても、とおっしゃるのなら、食前酒もワインも準備はしているが?」
「同じ飲み物で結構です」シャルロットが言った。そして、かの女も炭酸水のグラスを手にした。
 炭酸水を口にして、シャルロットは、思わず驚いた表情になってしまった。これは、ただの炭酸水ではない。いや、炭酸水には違いないのだが、口当たりが非常にいい。こんなにおいしい水があるなんて・・・とシャルロットは思った。
 その表情を見て、ウェルナー夫人は笑った。
「おいしいでしょう? 本当に、アルコールが入っていないのよ、これ。おいしさの秘訣は、たぶん、この温室で作られたバラの花びらを浮かべたから、かしらね?」
「とてもおいしいです」シャルロットは正直に言った。
 この水がおいしい理由は、たぶん、それだけではないだろう。彼らは、炭酸水の産地にもこだわっているはずだ。水一つとっても、彼らは洗練されたものを好むらしい。そう考え、かの女は少し暗い気持ちになった。この人たちは、本当にお金持ちなのだ。
 ルジツキー氏は穏やかな口調で言った。
「この間のことは、本当にすまなかった。あのとき、彼がわたしを選ぶとは思わなかったが、まさか、あなたを残してワルシャワから出て行くとは、さすがのわたしも想像していなかった」
 相手が柔らかい口調で話しているので、シャルロットもやんわりと言った。
「それでは、もし、あなたを選ぶ可能性が皆無だとわかっていたら、わたしを応援してくださいましたか?」
 ルジツキー氏は答える代わりに、小鉢に入ったグラタンを指さした。「まず、温かいものを食べてしまいましょう。ただのグラタンだが、熱いうちだとおいしく感じるはずだ」
 シャルロットは黙って頷いた。
 ただのポテトグラタンのように見えたが、スプーンで一口すくって食べたグラタンは、濃厚なクリームとほどよい堅さのジャガイモの味が<溶け合っている>というような絶妙な組み合わせだった。もっと食べたい、と思うような味付け。入れ物が小さいのが残念なくらいだ。ロジェ=ド=ヴェルクルーズがこれを食べたら、一体どんな顔をしただろう。彼だったら、料理人を追いかけ回してレシピを聞き出そうとしたに違いない。いや、厨房に押しかけて、3ヶ月くらい修行させてください、と申し出ただろう。
 シャルロットが感心して食べているのとは反対に、ルジツキー氏の方は目の前の食事にはほとんど無関心だったようだ。温かいものを温かく、冷たいものを冷たく。それ以上のことには興味がないようだった。
 かの女は、出し抜けに、同じようなタイプだったヴィンセント=ストックマンのことを思い出した。そうだ、そういえば、二人は似通った経歴の持ち主だった。どん底も最上のものも知っている人間。そういう人だけが持っている独特の雰囲気を、この人から感じる。彼とは、友人として知り合いたかった---シャルロットはそう思った。だが、自分たちは生涯友とはなり得ないだろう、シャルロットはそれを少しだけ残念に思った。
「わたしが雇った調査員は、あなたがあのサンフルーリィ氏の娘さんだとは気がつかなかったようだ。あとで、調査料を少々返却してもらうように言わなくてはならないな」ルジツキー氏は口を開いた。「あなたが、本当にユーフラジー=ド=サン=メランだったら、の話だが」
「まだ信じてらっしゃらないんですか?」シャルロットはほほえんだ。今度は心からの笑みを浮かべることができた。おいしい食事は、人を和ませるというのはどうやら本当らしい。「もっとも、信じて欲しいとは思いませんし、信じてもらうよう努力をしたいとも思いません。わたしは、自分の過去を秘密にしなければならない人間ですから、<敵方の人間>にわざわざ種明かししてみせる必要はないと思います」
「それでは、わたしは、やっぱり敵なのか?」
 ルジツキー氏の方も、顔の表情をほんの少し緩めていた。他人の前では隙を見せないこの男にしては珍しいことなのだろう、ウェルナー夫人の表情には好奇心が浮かんでいた。二人の表情を見て、シャルロットも少し緊張を解いた。
「いいえ。もしも、あなたがわたしの敵だったとしたら、わたしはあなたと一緒に食事はしないと思います」そう言って、シャルロットはほんの少し唇の端を緩めた。「・・・わたしは、ほんの赤ん坊の時から、命を狙われてきました。たとえ、銀のカトラリーを使っていたとしても、信頼できない人の手から食べ物を受けてはいけない、と教えられてきました。そのわたしの直感が、あなたは信頼できる人間だと告げています」
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