年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第105章

第1929回

 そして、彼は訊ねた。
「一体どんな心境の変化なのか、よかったら教えてもらいたいものだ」
 シャルロットはまじめな顔で言った。
「あなたのお義父さまから、話を伺いました。どうしてあなたが、わたしをずっと憎んでいたのか、その本当の理由を」
 アレクサンデルは器用に右側の眉だけを上げた。
「そして、あなたが、なぜこの屋敷にあれほどまでに執着していたのかを」シャルロットはそう言って黙った。
 アレクサンデルは唇の端をあげ、つぶやいた。「あの古ギツネめ、余計なことを」
 シャルロットは、ついさっき、その古ギツネが彼のことを古ダヌキと呼んだことを思い出し、うっかりふきだしそうになった。
 それでも、表情を引き締めると、さっきルジツキー氏から聞いたこの屋敷の歴史を、レーベンシュタイン夫妻に説明した。
 レーベンシュタイン夫妻は、初めて聞く話に絶句していた。一方、アレクサンデルの方は、話が終わるとにやりと笑った。
「・・・わたしはこの話の当事者だが、第三者から聞いた話を聞くと、別の家の歴史みたいだな」アレクサンデルが言った。「それに、義父がそれほどまでにロマンティストだったとは知らなかった。母は、確かに意に反した結婚をしたかもしれないが、息子のわたしから見て、かの女はそれほど不幸な人生を送ったとは思えない。ああ見えても、あの二人、夫婦仲はさほど悪くなかったと思うぞ。父は、若い妻をめとって幸せそうだったし、母も父に甘やかされてまんざらではなかったようだしな」
 そして、たぶん、癖になっているあごをしごく動作を繰り返した。「妻が若いと、自分も若返るような気がする。あらゆる意味で、年下の妻は悪くはないぞ。少なくても、父の方は幸せだったと確信できる」
 シャルロットはにっこりした。
「つまり、あなたが愛妻家だという噂は、本当だったんですね」
「そんな噂があるのか?」アレクサンデルもにやっとした。「それはよかった。妻を大切にしていないという噂が立ったら、義父が黙っていないからな」
 そして、片目を閉じた。「・・・もちろん、噂は本当だと義父にも言っておいて欲しいものだ」
『心得ています』というように、シャルロットも頷いて見せた。
 アレクサンデルは真顔に戻り、レーベンシュタイン夫妻に話しかけた。
「今お聞きになったとおり、わたしはこの屋敷を取り戻したいと思っている。どうやら、このご婦人もわたしに屋敷を売るつもりはあるようだ。問題は、現在ここに住む人たちの意思だな。わたしが見たところ、あなたがたは、ここを出て行きたくはないらしい。そして、わたしも、あなたがたに出て行って欲しいと頼むつもりはない」アレクサンデルは言った。「わたしとしては、この屋敷が自分のものになれば、現在住んでいる人間が誰であろうと問題はないのだ。それに、わたしには住まいがある。わたしは、生まれたときからずっと同じ屋敷に住んでいて、妻もそこを気に入っている。そこを引き払ってまで、ここに住まなくても困らない」
「だが、もしも、所有者が変わるようなら、わたしはここを出て行かなくてはならないと思う」ルドヴィークが言った。
 ユーリアは表情を硬くした。
「この屋敷は、わたしたちには分不相応のものだ。それでもここに住んでいるのは、この屋敷を管理していたコヴァルスキー氏の意向だった。誰かがここに住まなければならないから、わたしたちがここにいた。だが、コヴァルスキー氏は亡くなった。クリーシャもここを手放してフランスへ戻ろうと考えている。それならば、わたしたちもここを引き払うべきだろう」
「引き払う?」ユーリアは鋭い声を出した。「ここを出て、一体どこに住もうというの? わたしたちは、結婚以来ずっとここに住んでいた。ここで、たくさんの思い出を作ってきた。わたしたちには、何の過失もないのに、なぜ出て行かなければならないの?」
「事情が変わったんだ。わたしたちには、この家にふさわしい家賃を払うことはできないんだよ」ルドヴィークが言った。
 ユーリアは唇をかみしめた。そして、夫にではなくシャルロットに攻撃の矛先を向けた。
「だいたい、あなたは、人がよすぎるのよ」ユーリアはシャルロットに言った。「この屋敷の人たちは、ここがこの人の手に渡らないようにするために苦労してきたのよ。さっきの家政婦長のベック夫人の様子を見たでしょう? あれがきっと、この屋敷の人たちの総意のはずよ。あの仕事熱心なかの女が、未だにお茶を運んでこないのよ? こんなこと、前代未聞だわ!」
 ルドヴィークは妻を止めようとしたが、ユーリアは夫の様子には全く気づかずに言葉を続けた。
「それに、この人は、あなたにだってたくさんの悪事を働いてきた。まさか、忘れたわけじゃないわよね?」
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