アレクサンデルは、面白そうな様子でユーリアを見ていた。
「彼は、あなたをここから追い出そうとした。あなたから、心から愛していた両親の名前を奪った。それだけでは足りないかのように、彼はあなたの命まで狙った。まさか忘れてはいないわよね? あなたの息子を殺したのはこの人なのよ! ライを殺したのはこの人なのよ!」
「この人がライを殺したという証拠は何もないわ」シャルロットはユーリアに言った。「車の前に飛び出したのは、フェリシーの不注意に過ぎないわ」
「それだけではないでしょう? あなたは、広場で暴漢に襲われたわよね? そして、タデックとマリアーンが事故に巻き込まれた。すべてこの人のせいよ。あなたがワルシャワに来てから、わたしの大切な宝物が次々と奪われていった。それなのに、それではまだ十分じゃないというの? 今度は、わたしたちの家まで必要なの?」
シャルロットは、傷ついた表情を浮かべた。まさか、ユーリアにそこまで言われるとは思わなかった。
口をはさんだのは、アレクサンデルだった。
「そこまでおっしゃるなら、家賃はいりません。出て行く必要もありません。これまで通りここに住み、屋敷を管理していただくだけで十分です」
彼が穏やかな口調で言ったにもかかわらず、ユーリアの怒りはおさまらなかった。かの女はシャルロットをにらみ続けていた。
シャルロットは一瞬で表情を元に戻した。ユーリアの怒りがアレクサンデルの方に向けられてはまずかった。だから、今は自分が悪者になる必要があった。こうなったら、徹底的に憎まれた方が楽かもしれない。
「ここは、まだあなたの家ではありません」ユーリアはぴしゃりと言い返した。
ルドヴィークが口を開きかけたとき、勢いよくドアが開いた。
そこに立っていたのは、エドゥワルド=ユリアンスキーだった。彼の右側にはアンジェイ=ピルニ、左側にはベック夫人が立っていた。
彼らが口を開く前に、アレクサンデルはおもしろがっているような口調で言った。
「おや、ようやく援軍が来たようだな? 所望したのはお茶だけだったはずなのだが」
「あなたに差し上げるお茶はありませんと申し上げたはず」ベック夫人は毅然とした口調で言った。
ユリアンスキーは、アレクサンデルに声をかける前に、にらみあっている二人の婦人の方に視線を移した。そして、その場の状況を判断しようと試みたが、一瞬では判断できなかった。それからアレクサンデルに視線を向け、一瞬驚いたような顔をした。彼が笑っていたからだ。
「久しぶりだな、ユリアンスキー君」アレクサンデルは明らかに上機嫌だった。「何を企んでいるかは知らないが、ことを大げさにしないで欲しいものだ。ご覧の通り、わたしは一人だし、丸腰だ」
その言葉を聞くと、ピルニは反射的に一歩下がった。逆に、ユリアンスキーの方は一歩前進し、不安そうにシャルロットを見た。
「訪問の目的は、話し合いだ。なんでも、コヴァルスカ夫人がここをわたしに売りたいと考えているという噂を聞いて、その真偽を確かめに来た」
「まさか」ユリアンスキーは鼻で笑った。
「かの女が本気なのは、このご夫妻の表情をご覧になれば一目瞭然だろう?」
シャルロットは、ユリアンスキーの表情が変わるのを黙って見つめていた。今、彼が浮かべている表情を、シャルロットは一度も見たことはない。これは、戦士の表情だ。彼は、アレクサンデルにはずっとこの表情で対抗していたのだ。二十歳前でチャルトルィスキー家の執事になった彼は、屋敷と使用人たちを守ってきたのだ。そんな彼を法律的な立場から守っていたライモンドもいなくなり、今では孤立無援のリーダーとなった。ここ数年、再婚したアレクサンデルからの圧力がなくなっていたが、こんな風に攻撃を再開するとは、ユリアンスキーにとっても意外なことだった。もう一度シャルロットを丸め込むのがチャルトルィスキー公爵の新しい作戦らしい、とユリアンスキーは考えたようだ。
シャルロットは思った。アレクサンデル抜きで、一度きちんと話し合っておかなければならない。そもそも、この問題は、自分とチャルトルィスキー氏だけで解決する問題ではなかったのだ。この分では、間違いなく話がこじれてしまう。
「・・・それでは、やはり・・・?」ユリアンスキーはがっくりと肩を落とした。
「彼は、あなたをここから追い出そうとした。あなたから、心から愛していた両親の名前を奪った。それだけでは足りないかのように、彼はあなたの命まで狙った。まさか忘れてはいないわよね? あなたの息子を殺したのはこの人なのよ! ライを殺したのはこの人なのよ!」
「この人がライを殺したという証拠は何もないわ」シャルロットはユーリアに言った。「車の前に飛び出したのは、フェリシーの不注意に過ぎないわ」
「それだけではないでしょう? あなたは、広場で暴漢に襲われたわよね? そして、タデックとマリアーンが事故に巻き込まれた。すべてこの人のせいよ。あなたがワルシャワに来てから、わたしの大切な宝物が次々と奪われていった。それなのに、それではまだ十分じゃないというの? 今度は、わたしたちの家まで必要なの?」
シャルロットは、傷ついた表情を浮かべた。まさか、ユーリアにそこまで言われるとは思わなかった。
口をはさんだのは、アレクサンデルだった。
「そこまでおっしゃるなら、家賃はいりません。出て行く必要もありません。これまで通りここに住み、屋敷を管理していただくだけで十分です」
彼が穏やかな口調で言ったにもかかわらず、ユーリアの怒りはおさまらなかった。かの女はシャルロットをにらみ続けていた。
シャルロットは一瞬で表情を元に戻した。ユーリアの怒りがアレクサンデルの方に向けられてはまずかった。だから、今は自分が悪者になる必要があった。こうなったら、徹底的に憎まれた方が楽かもしれない。
「ここは、まだあなたの家ではありません」ユーリアはぴしゃりと言い返した。
ルドヴィークが口を開きかけたとき、勢いよくドアが開いた。
そこに立っていたのは、エドゥワルド=ユリアンスキーだった。彼の右側にはアンジェイ=ピルニ、左側にはベック夫人が立っていた。
彼らが口を開く前に、アレクサンデルはおもしろがっているような口調で言った。
「おや、ようやく援軍が来たようだな? 所望したのはお茶だけだったはずなのだが」
「あなたに差し上げるお茶はありませんと申し上げたはず」ベック夫人は毅然とした口調で言った。
ユリアンスキーは、アレクサンデルに声をかける前に、にらみあっている二人の婦人の方に視線を移した。そして、その場の状況を判断しようと試みたが、一瞬では判断できなかった。それからアレクサンデルに視線を向け、一瞬驚いたような顔をした。彼が笑っていたからだ。
「久しぶりだな、ユリアンスキー君」アレクサンデルは明らかに上機嫌だった。「何を企んでいるかは知らないが、ことを大げさにしないで欲しいものだ。ご覧の通り、わたしは一人だし、丸腰だ」
その言葉を聞くと、ピルニは反射的に一歩下がった。逆に、ユリアンスキーの方は一歩前進し、不安そうにシャルロットを見た。
「訪問の目的は、話し合いだ。なんでも、コヴァルスカ夫人がここをわたしに売りたいと考えているという噂を聞いて、その真偽を確かめに来た」
「まさか」ユリアンスキーは鼻で笑った。
「かの女が本気なのは、このご夫妻の表情をご覧になれば一目瞭然だろう?」
シャルロットは、ユリアンスキーの表情が変わるのを黙って見つめていた。今、彼が浮かべている表情を、シャルロットは一度も見たことはない。これは、戦士の表情だ。彼は、アレクサンデルにはずっとこの表情で対抗していたのだ。二十歳前でチャルトルィスキー家の執事になった彼は、屋敷と使用人たちを守ってきたのだ。そんな彼を法律的な立場から守っていたライモンドもいなくなり、今では孤立無援のリーダーとなった。ここ数年、再婚したアレクサンデルからの圧力がなくなっていたが、こんな風に攻撃を再開するとは、ユリアンスキーにとっても意外なことだった。もう一度シャルロットを丸め込むのがチャルトルィスキー公爵の新しい作戦らしい、とユリアンスキーは考えたようだ。
シャルロットは思った。アレクサンデル抜きで、一度きちんと話し合っておかなければならない。そもそも、この問題は、自分とチャルトルィスキー氏だけで解決する問題ではなかったのだ。この分では、間違いなく話がこじれてしまう。
「・・・それでは、やはり・・・?」ユリアンスキーはがっくりと肩を落とした。
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年代記 ~ブログ小説~

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年代記 第一部

総もくじ
年代記 第二部

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年代記 第三部

- ┣ *****第3部について*****
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