年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第105章

第1932回

 全員がそろったところで、ユリアンスキーはゆっくりと話し出した。
「奥さまは、この屋敷をポニァトフスキーさま---現在の公爵さまに売却されるおつもりだ」
 彼らははっとしてお互いに顔を見合わせた。彼らの動揺した表情を見て、シャルロットが言った。
「皆には、3つの選択肢を与えます。一つは、ここでこのまま仕事を続けること。その場合は、チャルトルィスキー公爵が新しい雇い主になります。彼と新たに労働契約を結んでください。ただし、ここに住むのはこれまで通りレーベンシュタイン夫妻なので、これまでと同じ待遇で仕事をすることになります。わたしは、これまで、申し訳ないくらい少ないお手当で働いていただいていましたから、もしかすると、公爵の方がわたしより、あなた方にたくさんの給料を差し上げるようになるかもしれません」シャルロットはいったん言葉を切り、続けた。「二つ目と三つ目は、ここを出て行くという選択肢になります。わたしがお願いしてやめていただくのですから、退職金は通常よりもたくさんお支払いします。二つ目の選択肢として、ここをやめたあとも、これまでの闘争を続けるという道があります。わたしには、もうあなたたちの役に立つことはできませんが、影ながら応援します。どちらも嫌だったら、三つ目として他の道に進んでください。わたしのところに来てもかまいませんが、その場合、公爵と争うことを禁じます」
 全員がユリアンスキーに視線を移した。彼が何と返事するか、知りたかったからだ。しかし、彼は黙っていた。
「この問題がこじれたのは、もとはといえば、前公爵が亡くなったあと、彼の甥が自分の腹心の部下たちを連れてここに乗り込んできたからです。この家の使用人たちは、自分たちがクビにならないように戦わなければならなかったんです」シャルロットはアレクサンデルに向かって言った。「あなたは、彼らの仕事を保障しさえすればよかったんです。主人が替わっても、これまでの生活を保障すると、そう言いさえすれば、問題はここまでこじれなかったんです・・・」
 アレクサンデルは苦笑した。
「当時、わたしは、新しく執事になったユゼフ=ユリアンスキーさんにそう説明されました。自分たちは、自分たちのために戦う。だから、それを認めて欲しいと。あれから20年よ。あなたたちは、もう、十分に戦ったんじゃないかしら?」
 それを聞いて、使用人たちはさらに動揺した。
「・・・本当のことを言えば、当時でさえ、いろいろな考え方の人がいた」ユリアンスキーがやっと口を開いた。「自分たちのそれまでの生活を守ろうとして戦っている人、前公爵に忠誠を誓っていてそのほかの主人を持ちたいと思わなかった人---いいかえれば、現公爵に反感を持っている、または前公爵の跡継ぎはシャルロットさまだと信じていた人・・・。ただ、利害関係だけが一致して、みながこの屋敷で戦った。ただ、今となっては、みなの利害さえ一致しなくなった。シャルロットさまは、戦いを終え、わたしたちを解散させようと考えている。だから、今から、わたしたちは、それぞれ自分が好きなように動くことにしよう。わたしは、ベック夫人に呼ばれてここに来た。だが、わたしは、かつての執事とは言え、今ではこの屋敷を去った人間だ。わたしは、もはやあなたたちの助けにはなれない。あなたたちのリーダーはベック夫人だ。あとは、かの女の指示に従って欲しい」
 ベック夫人は、大きく口をあいて絶句した。
「シャルロットさまがここを手放されるというのなら、わたしはその意志に従うまでのこと。これまでは、あなたと利害関係が一致していたけど、これからは違います。ベック夫人、前公爵の遺志に従う人たちを率いて、あなたがあたらしいグループを率いなさい。わたしは、この件から手を引きます」
「待って」声を上げたのはベック夫人だった。
「わたしが前公爵さまから頼まれたのは、屋敷のことではありません。シャルロットさまを守って欲しいと、ただそれだけを頼まれました。わたしはシャルロットさまが右を向けと言えば、自分がどう思っているかとは無関係に右を向きます。かの女が屋敷を手放すとおっしゃるから、屋敷から出て行く、それだけです」
《彼は、シャルロットが死ねと命じたら、今この場で死ぬはずだ》屋敷の使用人全員が、その事実を思い出した。
「・・・シャルロットさま、あなたは、わたしたちがどうすべきだと思いますか?」ベック夫人はシャルロットに訊ねた。
「もしも、嫌でないのなら、あなたたちにはここにいてもらいたいの。そして、レーベンシュタインさんたちを助けて欲しいの。これまで同様に」シャルロットは優しく言った。「もちろん、あなたたちの意に反してそれを勧めるつもりはないわ。さっきも話したとおり、あなたたちは自由なのよ。彼に仕えるのも、別の仕事に就くことも、わたしのところに来ることも、自分の意思で選択してちょうだい。わたしは、今日は、いったん帰らせていただくわ。2,3日後に、改めて話し合いましょう。それでは、ごきげんよう」
 そう言うと、シャルロットは誰の反論も聞かず、ユリアンスキーとピルニを従えて、その場を去って行った。
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