年代記 ~ブログ小説~ 

「年代記  第三部」
第105章

第1934回

 屋敷でいつもの出迎えを受けた後、シャルロットは来客を告げられた。モジェレフスキー夫妻が来ているのだという。この時間だから、彼らは家には戻らないつもりで出てきているのだろう。シャルロットは、誰にも会いたくない気分だったが、モジェレフスキー夫妻を追い返すわけにはいかない。
 シャルロットにとって意外なことに、客間で待っていたモジェレフスキー夫妻は、コートをいすに置いたままだった。玄関で預けてこなかったということは、彼らは、本当に<ただ立ち寄っただけ>だったようだ。外出の目的は、<グラフィート>に行くことだったに違いない。タデウシのことを誰かから聞きつけて、真偽を確かめるくらいの気持ちでここに来たのだろう。
 簡単なあいさつのあと、マウゴジャータはいきなり本題に入った。
「タデックと別れたんですってね。彼が本気だと聞いたときは本当に驚いたんだけど、冷静に考えてみれば、これでよかったんじゃないかしら」
 マウゴジャータの言葉に、シャルロットはつい苦笑してしまった。あまりにも単刀直入すぎる。だが、考えてみれば、モジェレフスキー夫妻は、タデウシとの結婚には心から賛成していなかったのは間違いない。亡き夫のヴィトールドとも親交があった彼らは、シャルロットがヴィトールドとはあまりにもかけ離れた男性を選ぼうとしていることに、表だって反対はしなかったものの、心から祝福しているわけでもないようだ、とシャルロットも気づいてはいた。たぶん、シャルロットが今一つ煮え切らない態度だったからだろう。
「タデックは、あなたがたにもあいさつをして行ったの?」シャルロットはそう訊ねてみた。
「いいえ。わたしたちの情報源は、階下の新しい友人」
 ギュンター=ブレンデル? シャルロットは一瞬驚いたが、考えてみれば、タデウシとギュンターは、一応義兄弟だ。厳密に言えば、ギュンターの妻の妹はすでに亡くなっているので、本来ならギュンターと妻の妹の夫であるタデウシは、もはや他人のようなものだ。だが、タデウシは自分の今後の身の振り方を、亡くなった妻の姉の夫に話してからポーランドを出て行ったのだ。シャルロットはタデウシにそんな律儀な面があったとは知らなかったが、もしかすると二人はお互いの妻の存在を抜きにしてもそれなりにつきあいがあったのかもしれなかった。
「タデックは、出かける前にギュンターに会っていった、ということなのね?」
「ええ、昨夜、<グラフィート>で話をしたそうよ。タデックとギュンターには、共通の知人が多かったから、このところ<グラフィート>で、彼らはよく会うようになっていたのよ。タデックがあなたと別れる、という決意をギュンターに告げたいきさつは、さっきギュンターとベルントに聞いたばかりよ。わたしたちは、夕べは<グラフィート>には行かなかったものだから」マウゴジャータがそこまで話したとき、お茶の用意が運ばれてきた。
 シャルロットは立ち上がり、手早くモジェレフスキー夫妻にお茶を出した。
「彼らの話をまとめると、タデックは、同じテーブルにいたギュンターとベルントのところに行くなり、いきなり、『自分はワルシャワから出て行く。クリーシャとは別れた。きみにあとのことを頼む』と言ったそうよ。そこで、ギュンターは、『自分たちはもうそんな親しい関係ではない。自分には、かの女に対してそれほど影響力があるわけではない。頼むなら、別の人にすべきではないのか』と言ったの。そしたら、タデックはちょっと悲しそうな顔をしてこう言ったそうよ。『クリーシャは、フランスへ戻るべきなんだ。かの女のフランス時代を知っている知人、と考えたとき、真っ先に思い浮かんだのがきみだった。きみなら、かの女が学生時代を過ごした町に戻る手伝いをするのに適任かと思った』。それを聞いたギュンターは、タデックの言葉を意外だと思ったみたい。『きみたちが別れる決心をしたのは仕方がないことだったかもしれない。きみがワルシャワから去ろうとするのも理解できる。だが、フランスに戻るのがかの女のためだと思うのはなぜか、が理解できない。かの女は、知り合いもたくさんできたポーランドに残った方がいいんじゃないのか? かの女のことを頼むのは、レーベンシュタイン夫妻がふさわしいのではないのか? わたしは、その任務には適任じゃない。そもそも、わたしは必要以上にかの女とは接触しようとしていないのは知っているだろう? わたしは、リアの手前、かの女とは親しくはできないんだ』ギュンターはそう答えたの」
 なるほど、ギュンターらしい答えだ。要するに、彼は、この件には関わりたくないのだ。
「それを聞いていたベルントが、決定的な一言を言ったの。『要するに、きみは利己的なんだ。自分がかの女と結婚しないのだから、かの女にも誰とも結婚して欲しくないんだろう? そんな理由だったら、わたしも彼もきみには協力できない。かの女を誰にも渡したくないんだったら、自分の手から離さなければいいだけだ。それができないのだったら、かの女の人生に干渉するな』」
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